生物に含まれる有機化合物には,軽い安定同位体(H, 12C, または14N)が濃縮しているものと,その反対に重い安定同位体(D, 13C, または15N)が濃縮しているものが存在する。しかし,「どのような生化学反応によって,どの有機化合物のどの元素に同位体分別がもたらされるか」,そして「その大きさ(程度)が,周辺の環境や条件に応じて変化するかどうか」に関する研究はほとんど行われてこなかった。発表者の研究グループは,この数年間,生物に含まれるアミノ酸の炭素・窒素同位体比を精密に測定し,生物の中央代謝(解糖系・TCAサイクル)における同位体比分別のメカニズムを研究してきた。その結果,生物の中央代謝系における同位体分別は,基質の反応部位の元素と酵素とが結合する際に,軽い安定同位体(12C, または14N)が優先的に反応することでもたらされるという新たな仮説を提案した。