近年の火星着陸探査は水質変成鉱物の詳細な化学分析を可能とし、生成環境復元を焦点に室内実験や物理化学モデルに基づく解釈が進んでいる。一方で初期火星表層に液体の水が保持されたメカニズムは長らく理論研究の争点であり、近年では水素分子の衝突誘起吸収が大気二酸化炭素の温室効果を補填した可能性が有力視されている。本研究では水素供給源として硫化水素の脱ガスが寄与した可能性について、玄武岩地殻の水質変成で生成する二価鉄サポナイトの還元力に着目して検証した。嫌気環境下で二価鉄サポナイトの水熱合成実験および水岩石反応実験を行った結果、硫化水素の存在下で水素生成を検出した。鉱物相のSTXM(走査型透過X線顕微鏡)像からパイライト粒子の生成やサポナイトの酸化が確認され、二価鉄サポナイトの硫化水素還元による水素生成過程が支持された。初期火星でも同様の反応が大気への水素分子供給に寄与したと推定される。