リン酸は、脊椎動物の歯や骨を構成するバイオアパタイトの主成分である。生物体内に取り込まれたリン酸は、細胞内酵素(PPase)の作用によって体液H2Oと温度依存の酸素同位体交換平衡に達することが知られている。そのため、バイオアパタイト中リン酸の酸素同位体組成からその生物の体温が推定可能である。ただし、体液H2Oは、生物が生息する環境水と生体内反応によって大気O2から生成した代謝H2Oの混合物であるため、代謝H2Oの影響を評価・補正する必要がある。そこで本研究では、海棲爬虫類の歯化石に含まれるバイオアパタイト中リン酸の三酸素同位体組成(D’17OAP)定量し、同位体平衡リン酸のD’17Oと比較することで代謝H2Oの影響を評価した。その結果、海生爬虫類の体液H2Oは海水そのものである可能性が高いことが明らかになった。D’17OAPを指標に用いることで、いかなる仮定も必要としない高確度な体温推定が可能であると結論付けられた。