2009 年 82 巻 6 号 p. 571-587
本稿の目的は戦前から戦後にかけての日本の資源論をレビューした上で,そこに通底する考え方を明らかにし,資源論の独自性を確認することである.資源論のサーベイは過去20年以上行われておらず,地理学においても資源論という分野名称は 1990年代にはほぼ消滅した.しかし,かつての資源論には,今なお評価すべき貢献が多く残っている.本稿では,特に資源論が盛んであった1950年代から1970年代にかけての議論,特に石井素介,石光 亨,黒岩俊郎,黒澤一清といった資源調査会と関わりの深かった論者の総論部分を中心に取り上げ,そこに共通する考え方や志向性を紡ぎだす.筆者が同定した共通項は,1)資源問題を社会問題として位置づける努力,2)現場の特殊性を重視する方法論,3)国家よりも人間を中心におき,国民に語りかける民衆重視の思想,である.経済開発と環境保護の調和がますます切実になっている今日,かつての資源論に体現された総合的な視点を新たな文脈の中で学び直すべきときが来ている.