2016 年 89 巻 4 号 p. 145-165
本稿では,カゴメ(株)を事例に,大企業が広域的な農業参入をどのように進め,それが地域にいかなる影響を与えるのかを,地理学的な視点から検討した.カゴメは1990年代の早い時期から生鮮トマト栽培に参入し,リスク分散や周年生産を重視しながら多元的・広域的に生産拠点の形成を進めてきた.特にカゴメは,西日本の中山間地域に多くの直営農場を設立したが,これらは過疎に悩む自治体からの誘致によるものである.実際,高知県三原村では,村が多額の予算を投じてカゴメの農場建設を支援していた.カゴメの進出によって,三原村では農業生産額が大きく伸び,若年層が従業員として周年雇用されるなどの効果が認められる.しかし三原村の事例からは,農場立地に伴う地域農業への波及効果は乏しく,また農場の従業員は大半が村外から雇用されるなど,カゴメ誘致の効果が必ずしも自治体や地域農業に還元されていないという問題点も明らかになった.