本研究では,第1種共同漁業であるイセエビ刺網の自主的管理を共同体基盤型管理(CBM)ととらえ,和歌山県串本町の11地区を事例として,同一地域内におけるCBMのミクロな多様性とその形成要因を検討した.イセエビ刺網のCBMを構成する手法は,空間管理,時間管理,漁具漁法管理,参入管理の4類型に分類される.イセエビ刺網の実態や傾向がある程度地理的なまとまりを伴いつつも地区間で異なっていたように,CBMのあり方もまた,地区間・手法間でさまざまな異同がみられた.これらの事例の比較検討から,CBMのミクロな多様性は,地区の自然的・社会的諸条件とその変動に対する漁家集団の応答の積み重ねによって形成されてきたことが明らかとなった.また,CBMが改変・維持される目的にも地区間・手法間で多様性がみられ,漁家集団の性質や意向を反映しながら,CBMの多様化を方向づけていた.