地理学評論
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九州における工業地域の発展と集積
村上 誠
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1962 年 35 巻 7 号 p. 310-326

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抄録

地域格差の是正という問題の一環として,工業地域造成による地域開発という点に焦点を合わせての試論であり,フィールドとして不振の石炭産業や広い低開発地域の開発問題をかかえる九州をとりあげた.具体的には,現在の工業地域の展開とその発展の過程・および最近の集積・拡張から地域のもつ工業立地の要因と経済発展段階を結びつけて,新しい九州の工業地域構造を特色づけ,地域開発における工業開発の問題点と方向を求めることである.その結果次のことが言える.
(a) 九州の工業は,他の表日本工業ベルトにみられたような綿工業段階を経ないで,いきなり海外依存率の高い軍事資材供給の重工業段階から始まり,また他地帯と較べて,国内一般市場とは隔絶されて発展して来た.この傾向は第二次大戦後「西偏過度」の言葉で置きかえられ,きわめて限られた業種のみ発展して来た.工業地域展開においては,北九州を核とし,西は福岡→八代,東は大分県へ延び,やや離れて孤立的な工業地区として,長崎,延岡があげられる.全般的に工業地域と非工業地域との経済的格差は大きく,特に南北のそれは著しい.
(b) 最近の工業集積は,一部消費財部門に新しい地域への集積があるが,主要生産財部門では,基本的に石炭との結びつきを基本とすることはそのままであるたあ,既存地域での既存企業の拡張が主であり,従来の地域格差をさらに拡大する傾向を示す,しかし,大分地区に石炭からはなれた工業核が,九州の既存工業の新しい脱皮体として生まれようとしている.
(c) ただし,大分地区は九州において最も地域的条件の恵まれた地区であり,他地域はそれ以下である.その際に,画一的な基幹工業育成・誘置を目ざす工業地域造成を計画するのは問題である.地域開発による地域格差の是正という前提に立つならば,単に工業のみを考えるのがすべてでないことはもちろんである.

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