抄録
水晶の構造から予測される理想的な形(構造形)は r、z、mの三面で構成されている。しかし、工業用に種子を用いて育成されている人工水晶にはr、z、m以外にZ, +X、-X、Sと呼ばれる面が出現する。後者の四面は種子を用いて育成する際に一時的に出現する準安定な面であり、特徴的な表面モルフォロジ-を示す。Z面はコブル構造と呼ばれるセル状の形状を示し、+X面は起伏に富んだ荒れた面である。-X、S面は条線面である。
1)カソ-ドルミネッセンス(CL)による内部組織の観察
一般にCLは不純物に敏感であり、不純物量の違いを容易に画像化できる。水晶の場合、主にAl不純物が発光センタ-になっており、セクタ-構造や成長縞等が観察できた。画像から推定される発光強度は+S > +X > Z および -X > Z であり、一般に知られているAl不純物量の順に一致する。また、+Xセクタ-ではブロック構造や縞状組織が観察された。マクロな+X面は真の+X面、S面、m面が交互に合わさった複合的な面である。+X面の表面と+Xセクタ-の組織との関係から、+X、S、mの三面における成長速度や不純物量の差がブロック構造や縞状組織を形成したことがわかった。
2)原子間力顕微鏡(AFM)による表面の観察
ナノレベルでの表面形状を明瞭に観察できるのが、AFMである。水晶の底面(Z面)は構造的にラフな面であり、形態不安定性によりコブル構造(タイプ?、?)が形成される。このコブル構造のAFM観察については昨年の当学会で報告した。混合転位が優先的な突出の役割を果たし、同心円状のセル状組織(タイプ?のコブル)を形成していることを述べた。この同心円組織は中心から周囲にいくほどセル幅が大きく、且つ溝が多くなり、次第にタイプ?のコブルに漸移していく。これは混合転位を起点とした形態不安定化の発達過程を示している。Z面における形態不安定性には、二つの過程があると言える。種子表面から始まりZ面表面に至る過程とタイプ?における混合転位を中心として周囲に広がっていく過程である。
一方、r、z、m面はスム-スな面であり、渦巻成長機構が働いていると考えられる。工業用に育成されている人工水晶ではr、z面に円錐状の成長丘が、m面にステップを持つ多角形の成長丘が観察されている。しかし、より微細な領域の観察はこれまで不可能であったが、AFMを適用することで、成長丘中心でのステップやホロ-コアが観察でき、らせん成分を持った転位による渦巻成長機構が働いていることが確認された。