人間生活文化研究
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原著論文
ラットにおけるヘキサクロロベンゼンの母親体内蓄積と母乳移行に対する自由摂取飼料の脂質レベルの影響
酒本 光子池上 幸江
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2015 年 2015 巻 25 号 p. 142-149

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抄録

【目的および方法】有機塩素系環境汚染物質は母乳を介して乳児に移行し,ダイオキシンでは現在も1日摂取許容量を超えている事例が報告されている.本研究ではダイオキシンと体内動態が類似するヘキサクロロベンゼン(HCB)をモデル化合物とし,その母体から胎児への移行に対する食餌脂質レベルの影響をラットで検討した.実験には妊娠期のSprague Dawley系ラットを用い,脂質レベルの異なる飼料にHCBを100μg/kgの濃度で混合して妊娠期から授乳期まで与え,母親ラットの体内へのHCBの蓄積量および乳児への移行量を測定した.飼料脂質レベルはコントロール食群(脂質レベル15.3%),低脂肪食群(5%),高脂肪食群(50%)とした.【結果】妊娠期では,飼料脂質レベルの体重や脂肪組織,肝臓重量への影響はなかった.授乳期ではコントロール食群に比べて,高脂肪食群で体重や脂肪組織重量が有意に高かった.母親の脂肪組織へのHCB蓄積総量は,妊娠期から授乳期で低下し,高脂肪食群では有意差はないが蓄積総量に高い傾向がみられた. 他方,乳児の後腹壁脂肪と皮下脂肪中のHCB濃度は,高脂肪食群では有意に低いが,後腹壁脂肪全体での蓄積総量は3群間に差がなかった.乳児の胃内容物中のHCB全量は,コントロール食群に比べて,出生後2日,5日目の高脂肪食群で有意に低く,10日目でも低い傾向であったが,低脂肪食群では差異はなかった.【考察】母親ラットの脂肪組織は高脂肪食群で大きく,とくに授乳期ではコントロール食群や低脂肪食群に比べて有意に大きかった.HCBは脂肪組織に蓄積しやすく,脂肪組織が大きくなると体内からのHCBの移動が抑制され,その結果として,高脂肪食群の母親ラットの乳児の胃内容物中のHCBも低くなったものと考えられる.本実験の高脂肪食群ではエネルギー値が高いために飼料摂取量が低くなり,飼料からのHCB摂取量も低くなったために,高脂肪食の影響は充分に明らかにできなかった.

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© 2015 大妻女子大学人間生活文化研究所
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