人文地理学会大会 研究発表要旨
2007年 人文地理学会大会
セッションID: 305
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第3会場
駅前再開発事業における住民の合意形成過程
―北千住駅西口地区第一種市街地再開発事業を事例として―
*栗林 和子
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抄録

市街地再開発事業の進行においては、しばしば地権者の間に激しい対立が生じ、事業が停滞するケースは少なくない。ではそのような対立がどのようにして生まれ、何をきっかけとして融和へと向かうのだろうか。対象事例である北千住駅西口地区第一種市街地再開発事業は、1979年の区によるパイロットプランの策定から2004年の再開発ビルの竣工、キーテナントのオープンまでおよそ四半世紀をかけて行われた。対象地区は東京都23区東北部において最大の乗降客数を持つ北千住駅に隣接していながらも、低層の木造家屋が密集しており、また区の商業中心地という地位は周辺の駅における駅前再開発事業によって相対的に低下傾向にあった。そこで区が主導し、再開発パイロットプランを策定、地元有志が中心となり準備組合が組織される。しかし一方で地権者の中には何としても事業を押し進めようとする区の強引な姿勢に反発を抱く人々もおり、彼らが1986年に区が都市計画決定を強引に進めたことを契機に「権利者協議会」を組織したことにより地元は大きく二分化する。また、区と、区に足並みを揃えていた準備組合との間にも対立が生まれ、事業は長らく停滞する。このような停滞状況が大きく変化するのは1992年、連合準備組合の組織化による。それまで対立関係にあった賛成派・反対派の地権者が互いの組織を解散させ、合併組織を立ち上げたのである。このような動きが生まれた理由として、地権者内部の要因としては賛成派・反対派の地権者間に「自分達のための再開発を自分たちの手で行う」という共通の目標が確立されたことが挙げられる。賛成派である準備組合の地権者の傾向としては広い土地を所有しいわゆる地元の名士であり、「まちが良くなるためなら多少の損は厭わない」という立場をとっていたことが挙げられるが、区のすることに間違いはないとする年配層と、区のやり方はエゴであると考える若手層との間に意見の相違が生まれていた。一方反対派の内部では土地を売却し転出する者が多く、このままでは自分たちの意見が少数派として無視されてしまうのではないかという焦りが生じていた。そのような中、両者のオピニオンリーダーが話し合いを重ね、目的の共有を確認したことが契機となる。また、外部の要因としては都市計画が決定されたことにより地区内での建造物の更新に規制がかかり地域の衰退につながるという危機感が生じていたこと、もう一点としてバブル期に高騰した地価が下落し始めたことが挙げられる。 以上のように地権者内部の要因、外部環境による要因によって合併組織が生まれ事業は再び動き出したのである。本発表では、以上の事例事業について地権者の属性の違いに着目し、オピニオンリーダーへのヒアリングを基に彼らの声を反映し、その経過を明らかにすることを試みる。

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