抄録
戦後日本の地域人口の変化は,都市の規模や都市への近接性といった社会条件との関連で説明されることが多く,自然条件との関連をも含めた詳細な検討は,ミクロな地域スケールでの研究を除けば少なかった。近年のGISの利用環境の向上は,自然条件ならびに社会条件と人口現象との関連を広域的に検討することを容易にしつつある。
こうした状況を踏まえ,本報告では,国勢調査の基準地域メッシュの男女5歳階級別人口のデータを,標高,都市圏,役所(場)からの距離を基準として地域ごとに区分し,1990~2000年の人口変化を自然増加と社会増加に区分して分析する。
分析の結果、以下の点が明らかになった。人口の大部分が分布する標高0~100 mの地域では人口の社会減少が生じていたが,相対的にみれば流出の程度は小さく,自然増加となっていた。ただし,自然増加数,自然増加率ともに低下傾向にあった。一方,人口の少ない標高の高い地域,とくに標高300 m以上の地域では,社会減少が大きいことはもとより,それ以上に自然減少の方が大きくなっていた。これらの中間にある標高100~300 mの地域は,標高0~100 mの地域に近接しており,社会増加となる場合もみられたが,自然減少が生じていた。
都市圏の影響については,標高の低い地域では都市圏の規模が大きい場合に自然増加ならびに社会増加により人口が増加したが,都市圏の規模が小さくなるにつれて自然減少ならびに社会減少が顕著になり,人口が減少した。標高の高い地域,とくに標高300 m以上の地域では都市圏の影響は複雑で,都市圏の規模が大きいほど自然減少や社会減少も小さいという単純な傾向はみられなかった。
役所(場)の影響については,標高の低い地域では,都市圏の規模が大きい地域を中心に郊外化の影響がみられたのに対し,標高の高い地域では,役所(場)に近接する地域の方が人口減少が緩やかな傾向がみられた。
本稿の結果から,標高の高い地域では人口の再生産が困難になっていたことが明らかになった。その背景にあるのは,出生力の低下のみならず,これまで続いてきた若年人口の流出である。とくに後者は、再生産年齢人口の性比の歪みや人口構造の高齢化に寄与し,年少人口の減少による社会減少の縮小と,滞留した人口規模の大きな世代の加齢による自然減少の拡大をもたらした。また,こうした地域では,ミクロにみれば,高齢者を中心とした人口規模の小さい集落が点在する状況もみられる。このため,人口減少のさらなる進展が人々の生活の脆弱性を高め,これまでモビリティの低かった人々の流出を促し,人口減少を加速させる可能性もある。他方,標高の低い地域においても,人口の再生産が困難な地域が生じていた。一部の地域では依然として自然増加となっていたが,親世代の減少や出生力の低下,人口規模の大きな世代の加齢という事態の進展によって自然減少に転じることはいずれ避けられないであろう。また,社会増加についても,モビリティの高い年齢層の人口規模が縮小していくため,自然減少を補うほどの社会増加が生じる地域はごく限られるであろう。以上を踏まえるならば,今後,居住域の縮小はより広範に発生する可能性がある。