人文地理学会大会 研究発表要旨
2007年 人文地理学会大会
セッションID: 309
会議情報

第3会場
社会調査データの収集方法がWTPに与える影響の検討
―郵送調査とインターネット調査の比較分析―
*村中 亮夫中谷 友樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
I はじめに
 近年,市場調査や医療・疫学研究の分野では,インターネット調査の利用が急速に普及し始めている。インターネット調査には経済性や迅速性の利点がある一方で,被験者の設定問題や回答収集方法に関わる問題が指摘されている。これらインターネット調査の持つ利点と欠点について,市場調査においてはしばしば経済性と迅速性といった利点が強調されてきた。しかし,母集団の代表性の問題に関心を持つべき社会調査においては,従来型のデータ収集方法と比較してインターネット調査にどの様な問題が存在するのかを考える必要がある。そこで本研究では,歴史的景観復興に対する意識調査データを題材に,社会調査データの収集方法(郵送調査とWeb調査)が景観に対する意識,とりわけ景観復興に対する支払意思額(WTP)に与える影響を,被験者の社会経済属性や居住地属性を考慮しつつ検討することを目的とする。

II 分析資料
(1)分析データ
 本研究では,京都市における災害発生後の歴史的景観復興を想定し,歴史的景観の継承に関わる意識調査を,20歳以上の京都市内在住者に対してWeb調査および郵送調査で実施したデータを用いる。分析に利用するデータは (1)従属変数:歴史的景観復興に対するWTPを示すWTP,抵抗回答か否かを示すProtest,(2)データの収集方法を示すWeb,(3)被験者の社会経済的属性:性別を示すSex,年齢を示すAge,所得を示すIncome,(4)被験者の居住地属性:京都市内在住年数を示すYear,都心4区(上京,中京,下京,東山)に居住しているか否かを示すCitycentreである。
(2)調査の概要
 本調査では,Web調査と郵送調査に基づき,京都市内に在住している個人に対してアンケート調査を実施した。Web調査では,Yahoo!リサーチの登録モニターを調査対象者とした。本研究における標本抽出では,性別,年齢階級を考慮した層化抽出法により698名を計画標本とし,有効配信数698(未達数0)に対して調査協力の依頼を行った。このうち,有効回答回収数は329(有効回答回収率=47.1%)である。一方,郵送調査では,京都市に住民票を届出ている者を調査対象者とした。サンプリング台帳としては住民基本台帳を利用し,系統抽出法により1,500名を計画標本とした。転居等の事由により15通が未達であり,最終的には1,485通の有効配布数のうち,WTPおよび正常回答の判断に必要な質問に回答漏れの無かった536通を有効回答とした(有効回答回収率=36.1%)。アンケート調査は,Web調査を2007年2月8~13日,郵送調査を2007年3月30~5月11日に実施した。

III 結果
(1) データ収集方法と抵抗回答率との関係
 WTPを用いた分析では,しばしば有効回答から抵抗回答を除いた回答(正常)が用いられる。抵抗回答とは,歴史的景観復興に対する価値を認めてはいるが,シナリオに対する抵抗感から0円回答を選択した回答である。この抵抗回答は,シナリオを正確に把握していないという判断から,WTPの評価から除外される。つまり,抵抗回答率の違いを原因として,WTPに大きな変動が生まれる可能性がある。そこで,調査で得られた回答者の社会経済/居住地属性の違いを含めて,従属変数をProtestとする二項ロジスティック回帰分析を行なった。変数選択ではデータ収集方法を表すWeb,社会経済/居住地属性に関わる5変数,そしてこれら5変数とWebとの交互作用を考慮し,これらを掛け合わせた5変数を独立変数として投入した。そこでは,有意確率が0.050以上の変数の中から有意確率の高い変数から順番に削除していった。その結果,Webは有意な変数とはならず,AgeとIncomeがProtestに正の影響を与えていることが分かった。
(2)データ収集方法とWTPとの関連性
 データ収集方法は抵抗回答率にとは統計的に有意な関連性が認められなかったため,以下の分析では329のWeb調査回答者のうち296の正常回答を,536の郵送調査回答者のうち465の正常回答を,それぞれ分析に利用することにした。そこで,回答者の社会経済/居住地属性の違いを含めて,WTPを従属変数とするグループデータ回帰モデルを検討した。変数選択の過程は,Protestの二項ロジスティック回帰分析と同様である。そこでは,有意確率が0.050以上の変数の中から有意確率の高い変数から順番に削除した。その結果,WTPに対してWebが負の影響を,Webと所得の交互作用項であるWeb×IncomeとWebと年齢の交互作用項であるWeb×Ageが正の影響を与えていることが分かった。つまり,(1)Web調査回答者のWTPに比較して郵送調査回答者のWTPが高いが,(2)Web調査回答者の方が所得や年齢によるWTPの違いが大きいことが分かった。また,都心4区居住者か否かを基準としたWTPの地域差が認められないことが明らかになった。
著者関連情報
© 2007 人文地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top