抄録
与太郎淵は,岐阜県郡上市白鳥町歩岐島地区にかつて存在していた池で,コイ科フナ属の体色変異個体で
あるヒブナの分布域として知られていた.しかし,1956 年に埋め立てにより消失した後,ヒブナが分布し
ていたことは現地においても忘失されつつある.本研究では,その分布記録をあらためて提示するため,地
籍図・現地調査ならびに文献調査を実施して情報を整理した.現地調査では,いずれの地点でも与太郎淵の
痕跡は確認されなかったが,過去の地籍図および聞き取りによる情報から,その位置・形状や周辺の水路の
存在が判明した.文献調査では,与太郎淵の埋め立ての経緯や名称の由来が確認された.また,ヒブナは,
1934 年の文献を最後に分布記録が途絶していたが,聞き取りによる情報から,1950 年代まで生息してい
た可能性が示唆された.本研究では,ヒブナの来歴については不明な点が残ったものの,生息していた水域
や年代について一定の知見が得られた.