人と自然
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32 巻
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  • 2022 年 32 巻 p. 1-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/19
    ジャーナル フリー
    形態の比較ならびに分子系統解析により,ジャゴケ属Conocephalum とヒメジャゴケ属Sandea は,そ れぞれ世界に6 種と3 種を持つ独立の属であることが示された(Akiyama and Odrzykoski 2020).こ のうちジャゴケ属については日本には4 種,台湾には3 種が分布する.本論文ではこの成果ならびにジ ャゴケ探検隊のメンバーによって日本全国各地ならび台湾から得られた生植物を用いた形態と分布につい ての詳細な検討に基づき,これまで和名だけが与えられていた日本と台湾に分布するジャゴケ属植物3 種 のそれぞれを,オオジャゴケC. orientalis H. Akiyama,ウラベニジャゴケC. purpureorubrum H. Akiyama,そしてマツタケジャゴケC. toyotae H. Akiyama を新種として記載した.また北半球冷温帯 に広く分布するタカオジャゴケC. salebrosum についても,日本・台湾産標本に基づいてヨーロッパ産植 物との違いを比較検討して記載を与えた.
  • 2022 年 32 巻 p. 47-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    兵庫県北部に位置する三川山の北斜面とその山麓部に はまとまった面積を有するコナラ二次林・ブナ二次林が 数多く分布している.本研究では,当地域の35 地点(標 高40‒500 m)においてコナラ二次林・ブナ二次林の 植生調査を実施し,両二次林の種組成・垂直分布の相違 を明らかにすることを目的とした.種組成の違いにより 調査林分は二つの群落単位(タイプA,タイプB)に 区分された.高木層の主な優占種はタイプA がコナラ で,タイプB がブナであった.これらのことから,調 査地域に分布するコナラ二次林とブナ二次林の種組成は 明確に異なることがわかった.DCA の1 軸スコアと暖 かさの指数(WI),寒さの指数(CI)の間にはそれぞれ 強い正の有意な相関が認められた.このことから,コナ ラ二次林とブナ二次林の種組成の相違は気温条件の違い を大きく反映していると考えられた.コナラ二次林とブ ナ二次林の分布の境界をなす標高は300 m 前後である ことが示唆された.この標高は調査地域におけるウラジ ロガシ自然林・ブナ自然林の分布境界の標高と類似して いた.標高300 m 地点のWI とCI はそれぞれ約95 ℃・ 月,約-10 ℃・月であると推定された.
  • 2022 年 32 巻 p. 57-67
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    兵庫県南部沿岸域の中期更新世以降の地殻変動量の基 礎データ得ることを目的として,神戸市垂水区高塚山の 露頭試料と,同灘区石屋川のボーリングコア試料(石屋 川南コア)についてMIS11 の層準(大阪層群のMa9 層) を対象に珪藻分析を行った.そして,神戸市灘区,東灘 区のボーリングコア試料(摩耶コア,東灘コア)の同時 期の珪藻群集データと比較した.露頭試料からは淡水か ら内湾環境への環境変遷とともに,最大海進期とみられ る, 海水浮遊性種の産出頻度が最大となる層準が見られ た.これは摩耶および東灘コアの,MIS11.3 の温暖期 と考えられる,同様の最大海進期の層準に対比される可 能性が高く,高塚山のそれとの標高差はそれぞれ338.9 m,318.0 m であった.またそれらの変位速度は約0.8 m/ 千年と求められた.これらは,六甲・淡路島断層帯や, 大阪湾断層帯の一つである和田岬断層による相対的な変 動量と考えられる.石屋川南コアについては明瞭な海進 の層準は捉えられなかったが,摩耶および東灘コアの海 成層準と比較すると約80 ~ 110 m,60 ~ 90 m の標 高差がみられた.
  • 2022 年 32 巻 p. 69-88
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    秩父盆地の尾田蒔面上に堆積するチバニアン期テフラ 群から17 層のテフラ試料を採取し,粒子組成・重鉱物 組成や直方輝石・角閃石類の斑晶鉱物の屈折率を分析し てテフラの対比を再検討した.最下位のOD1 テフラは, これまでの記載と異なる岩石記載的特徴を示したが,関 東地方西部のKap-5 テフラと対比可能であった.4 層 の黒雲母に富む細粒火山灰(OD6,OD9,OD11,お よびOD15)は大町APm テフラ群のA1Pm ~ A4Pm にそれぞれ対比されたが,八ヶ岳火山東麓のYt-hop テ フラに対比可能なテフラは見出せなかった.またOD2 では510 ± 160 ka の,OD6 では350 ± 70 ka およ び356 ± 29 ka の,ジルコン結晶を用いたフィッショ ン・トラック(FT)年代(誤差は各1 σ)を得た.さ らにこれまで同一の手法,機関で実施された全てのFT 年代を総合し,関東地方に分布するA1Pm の加重平均 FT 年代として375 ± 21 ka を求めた.これらOD2 やA1Pm(OD6)のFT 年代などから,尾田蒔面は約 500 ~ 600 ka に形成されたと推定される.
  • 2022 年 32 巻 p. 89-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    与太郎淵は,岐阜県郡上市白鳥町歩岐島地区にかつて存在していた池で,コイ科フナ属の体色変異個体で あるヒブナの分布域として知られていた.しかし,1956 年に埋め立てにより消失した後,ヒブナが分布し ていたことは現地においても忘失されつつある.本研究では,その分布記録をあらためて提示するため,地 籍図・現地調査ならびに文献調査を実施して情報を整理した.現地調査では,いずれの地点でも与太郎淵の 痕跡は確認されなかったが,過去の地籍図および聞き取りによる情報から,その位置・形状や周辺の水路の 存在が判明した.文献調査では,与太郎淵の埋め立ての経緯や名称の由来が確認された.また,ヒブナは, 1934 年の文献を最後に分布記録が途絶していたが,聞き取りによる情報から,1950 年代まで生息してい た可能性が示唆された.本研究では,ヒブナの来歴については不明な点が残ったものの,生息していた水域 や年代について一定の知見が得られた.
  • 2022 年 32 巻 p. 99-108
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    我が国の国土の27 % は針葉樹人工林に占められてい る.林学研究は森林の生産性に力点がおかれ,生物多様 性に対する注目度は低かった.本研究は長野県信濃町黒 姫のスギ人工林の間伐が林内の気象などの環境要素,下 層植生とその花への昆虫の訪花に及ぼす影響を調べた. 間伐によって森林の下層部は明るくなった.間伐を行っ ていないスギ人工林に比べて間伐林では下層植生の積算 優占度が1 年目に1.7 倍と多く,2 年目に4.5 倍に増加 した.間伐林では先駆性の低木と大型双子葉草本が多か った.また虫媒花植物と訪花数も落葉広葉樹林と同レベ ルであった.これに対してスギ人工林では訪花昆虫はま ったく観察されなかった.本研究はスギ人工林の生物多 様性と訪花が間伐によって改善される可能性を示した.
  • 2022 年 32 巻 p. 109-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    青森県下北半島西岸の佐井村下ノ崎で,2020 年8 月 28 日にイソカニムシ1 個体の生息を確認し採集した. 確認地点は,下ノ崎の北西を縁取る海食崖頂部の標高 110 m に位置する硬質岩盤の開口割れ目沿いで,本種 においてこれまでの最高地点での採集記録となる.本種 の生息環境は主に,潮上帯を含み垂直方向に海食崖の表 面に沿って標高数m から十数m で,稀に海食崖に沿っ て数10 m から100 m を超える高位に達する.また, 海食崖を構成する地層は開口割れ目を伴う固結した岩盤 であることも,本種の生息環境として重要である.とこ ろでイソカニムシの生息環境に関して,読み取り可能な 地形記載を伴う確実な潮間帯からの記録は,既存文献中 に見出すことができなかった.今後,採集地点の詳細な 地形記載を蓄積することで,本種の生息環境のより具体 的な解明が望まれる.
  • 2022 年 32 巻 p. 115-131
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    瀬戸内地方に位置する兵庫県の播磨灘沿岸および山 口県の周防灘沿岸の海岸域において,2018 年7 月から 2020 年3 月にかけ,海岸植物20 種の生育状態を毎月 観察・記録した.観察した海岸植物を塩生植物(シバナ, ドロイ,シオクグ,イソヤマテンツキ,アイアシ,ナガ ミノオニシバ,ハマサジ,ホソバハマアカザ,イソホウ キギ,ヒロハマツナ,ハママツナ,フクド,ウラギク, ハマボウ),海岸崖地植物(イワタイゲキ,ハマナデシコ, ノジギク,ボタンボウフウ),海浜植物(アキノミチヤ ナギ,マツナ)に区分し,各種の展葉,開花,種子散布 などの時期を示した.
  • 2022 年 32 巻 p. 133-140
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
    2020 年6 月から2021 年6 月にかけて,センサーカ メラを用いて石巻専修大学演習林の哺乳類相ならびに 鳥類相を調査した.調査期間中,23 種(哺乳類12 種, 鳥類11 種)の動物が記録され,中には宮城県のレッド リストで「要注目種」に指定されているニホンカモシカ Capricornis crispus が含まれていた.いくつかの種で 親子連れやつがいと思われる映像が複数回撮影されたこ とから,演習林で繁殖していると考えられた.ニホンジ カCervus nippon ,アカギツネVulpes vulpes ,タヌ キNyctereutes procyonoides ,イエネコFelis catus の撮影枚数が多かったいっぽう,鳥類の撮影枚数は少な かった.12 種の哺乳類のうち6 種は通年記録されたが, 6 種は撮影頻度に季節差があった.動画が多く撮影され た時間帯(対象動物が活発に行動する時間帯)は他地域 の結果とほぼ同様だった.ニホンジカはその採食圧で植 生劣化や土壌流出を引き起こすことが各地で知られてお り,演習林のニホンジカの今後の動向に注目する必要が ある.
  • 2022 年 32 巻 p. 141-142
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
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