保全生態学研究
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ニホンジカによる森林土壌の物理環境の改変 : 房総半島における広域調査と野外実験
柳 洋介高田 まゆら宮下 直
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2008 年 13 巻 1 号 p. 65-74

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抄録
房総半島の森林において、シカが土壌の物理環境へ与える影響とその因果関係を明らかにするための広域調査と野外操作実験を行った。広域調査では、シカ密度と森林タイプ(スギ林、ヒノキ林、広葉樹林)の異なる林で、土壌硬度やリター量といった土壌の変数と、下層植生の被度や斜度などの環境変数を調査した。このデータをもとに、パス解析とBICを用いたモデル選択を行い、因果関係を推定した。スギ林においては、シカ密度はリター量や土壌硬度に何ら影響を与えていなかった。ヒノキ林では、シカ密度が下層植生被度の減少を通して土壌硬度を上昇させ、リター量を減少させる間接的な経路が検出されたが、広葉樹林では、シカ密度が土壌硬度に直接影響する経路が選択された。操作実験では、スギ林とヒノキ林においてシカの嗜好性植物の刈り取り処理を行った。その結果、ヒノキ林では、嗜好性植物の除去が土砂やリター移動量を増加させ、土壌硬度を上昇させたが、スギ林では広域調査と同様に、そうした影響は検出されなかった。以上の結果から、シカが土壌の物理環境へ与える影響は森林の樹種構成によって大きく異なること、また土壌の物理性の変化については、雨滴衝撃や土砂移動によって地表面にクラスト層が形成されていることが示唆された。こうした土壌環境の改変は、生態系のレジームシフトを助長する可能性があり、今後詳細な研究が不可欠と思われる。
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© 2008 一般社団法人 日本生態学会

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