抄録
岩手県一関市内の里地里山(さとやま)で進められている「久保川イーハトーブ自然再生事業」では、落葉広葉樹林の間伐・下草刈りなどの植生管理と外来種の排除が行われている。さとやまの生態系サービスのうち、ニホンミツバチApis cerana japonicaが提供する野生植物の送粉を通じた基盤サービス、栽培植物の授粉を担う調節サービス、および供給サービスである蜂蜜生産の定量的評価に向けての基礎的情報を得るために、1)定期的なルートセンサスによる訪花調査により、花資源利用および送粉・授粉に寄与する植物種を把握するとともに、2)蜂蜜生産の評価に適当な季節を明らかにするための貯蜜・育児量調査を行った。なお、訪花調査の結果との比較のため、ニホンミツバチの利用する植物種数の多い春季には、3)巣に持ち帰る花粉の分析も行った。訪花調査と花粉分析の結果を総合して、野生在来植物45種の送粉と、作物3種、園芸植物2種の授粉への寄与が示唆された。春季には畦畔・休耕田の草本植物、夏季には落葉広葉樹林の木本植物、秋季には畑地のソバからの採餌が多く認められた。春季の持ち帰り花粉の調査からは、落葉広葉樹林の樹木が多く利用されていたことが確認された。貯蜜量の季節変化から、蜂蜜供給サービスの評価のための調査に適切な季節は、貯蜜量が増加する6月もしくは、9月であることが示唆された。