保全効果の高い区域を抽出することは、保全計画を策定するための生物多様性評価のひとつとして有効であると考えられる。本研究では、2000年のレッドデータブックに掲載された維管束植物の絶滅危惧種(以下、RDB種)の減少要因及び生育地タイプごとに区域の保全効果を算出し、それぞれのタイプにおけるホットスポットの比較を行った。しかしながら、区域の保全効果の大きさには調査バイアスが影響している可能性がある。そこで、区域の保全効果の大きさに対する調査努力の影響を統計モデルによって検証した。区域の保全効果は2000年のRDB種分布情報を用いて、RDB種の絶滅リスクの減分を2次メッシュ(約10km四方の区域)単位で算出した。その結果、複数の生育地タイプを持つ区域では保全効果が高い傾向にあり、保全効果が高い地域には多様な生育環境があることが示唆された。全種から算出した区域の保全効果を用いた累積ロジットモデルによれば、ホットスポットは自然林が多い地域、火山性の地形、及び低地に分布する傾向が見られた。ただし、種の減少要因や生育地のタイプ別に解析を行った結果、RDB種の減少要因や生育地タイプによってホットスポットの地理的分布にいくつかの違いがみられた。また、一部の生育地タイプの種では、地域によって調査努力量に差が生じている可能性がある。そのため、全種をまとめた解析や地域間をそのまま比較することには注意する必要があるが、広域的評価は全国スケールでみた当該地域の価値を把握する上で有用であると考えられる。今後、評価の空間スケール依存性や調査努力量の差を考慮できるような評価技術が発展することで、全国で得られた貴重なデータをより活かした広域評価ができるようになることが期待される。