保護地域の設置と管理は生物多様性保全のための最も重要な対策の一つである。生物多様性条約第10回締約国会議において採択された愛知目標には、陸域と湖沼・河川などの陸水域で17%、沿岸域および海域で10%を保護地域とするという数値目標が掲げられた。自然公園は、日本国内において保護地域としての役割をはたす中心的な存在である。しかし、維管束植物を対象とした評価からは、自然公園の絶滅危惧種の個体数の減少抑止の効果は完全ではないこと、また自然公園も含めた国・地方自治体によって設置・管理されている保護地域と絶滅危惧種の分布との間にはギャップが存在することが明らかにされている。本稿では、自然公園のような大規模な既存保護地域の機能を補完しうる、小規模できめ細かな保護区の設置・管理に関する市民・企業による取り組みを紹介する。また、海外の事例としてボルネオの集落保護林の研究を紹介する。これら民間による保護地域の設置・管理についての現状を俯瞰した上で、民間保護地域制度を利用した現状評価や、認証制度としての活用、また保全活動と支援主体を結ぶ仕組みづくりに注目した課題の整理と提言をおこなう。