抄録
セアカゴケグモLatrodectus hasseltiiは、日本では1995年に大阪府ではじめて発見された外来生物であり、原産国であるオーストラリアなどでは神経毒により死者を出したこともある。セアカゴケグモは、クモ自身の歩行に加え貨物や車両などに付着して移動する人為的な移動を行うため分布域が急速に広がり、近年増加している咬傷被害件数を減らすよう管理する必要がある。しかし、このセアカゴケグモ特有の人為的な移動を考慮した分布拡大予測は行われていない。そこで本研究では近畿地方を1 kmメッシュに区切り、人為的移動を考慮したセアカゴケグモの分布拡大予測を行った。まず1995?2013年の目撃分布から、近畿地方における生息可能条件を標高?460.1 m、1月平均気温?1.1℃とした。次に、時系列の分布図からロジスティック回帰分析により、前年の目撃メッシュからの距離を変数としてランダム歩行による移住確率のカーネル関数を算出した。この時目撃分布を最も良く再現する最大移住距離は、年間9 kmとなった。さらに人為的移動の影響要因として、交通・流通施設(空港、港湾、道路、物流拠点)、交通量(鉄道、バス、自動車、自転車のトリップ量)を選び、施設からの距離と交通量を変数とするクラスタ分析によって5分類した地域別に、人為的な移住確率を算出した。この結果、トリップ量が多いまたは交通・流通施設に近いクラスタの移住確率が高く、人為的移動による移住確率の増加が示された。最後に両者を合成したモンテカルロ・シミュレーションを行い、2013年の分布域予測値と実測値を比較することでモデルの検証を行い、さらに2045年までの分布拡大予測を行った。人為的移動を考慮した分布予測は妥当であり、2045年には生息適地全域で分布すると予測した。