隠岐諸島の島後に生息するオキサンショウウオHynobius okiensisにおいて、野外における孵化個体の新規加入や変態個体の上陸の時期、捕食者などの基礎生態についてはよくわかっていない。本研究では、河川の上流域や渓流、沢における幼生の採集調査、および、潜在的な天敵による捕食実験を行い、本種の分布要因の一端を明らかにすることを試みた。島後の集水域4箇所でそれぞれ2地点ずつの調査場所において幼生採集調査を行ったところ、2016年4月に、体サイズの大きな越冬幼生のみ確認されていたが、5月になると、越冬幼生に加えて、それらに比べて顕著に小さい当年幼生が同所的に確認された。越冬幼生と当年幼生の同所的生息は8月まで確認されたが、9月に入ると越冬幼生の生息が確認されなくなった。ハゼ科の底生魚が確認された調査地点ではオキサンショウウオの生息がほとんどみられなかった。室内実験では、越冬幼生とハゼ科底生魚による当年幼生の捕食が確かめられた。以上のことから、オキサンショウウオは、4月から5月頃に当年幼生が新規加入し、越冬幼生は8月までに変態・上陸すると考えられた。さらに、越冬幼生は捕食者として、春先に加入した当年幼生の死亡要因の一つである可能性が示された。また、はまり石の下などの微生息場所がオキサンショウウオ幼生と重複するハゼ科底生魚の在不在が、野外におけるオキサンショウウオの分布に影響を及ぼしていると考えられた。