保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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調査報告
宅地造成地法面における絶滅危惧種ハナノキの実生更新の成功と、その更新特性について
野村 勝重野村 礼子玉木 一郎菊地 賢
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2021 年 26 巻 2 号 論文ID: 2024

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抄録

中部地方の丘陵地帯に生育する絶滅危惧種ハナノキは、その自生地の多くで更新不良による個体群の衰退が心配されている。近年、岐阜県多治見市東山地区の住宅団地造成法面に、ハナノキの稚樹が数多く確認された。これは隣接する天然林内の雌株を母樹とした実生が、造成法面の好適な光環境の下で定着したためと考えられる。そこで本調査では、これをハナノキの実生更新の貴重な事例として報告するとともに、ハナノキの更新特性に関する知見を得るため、これら更新個体の生残・開花状況を追跡し、その胸高直径および樹高を測定した。法面の更新個体はすべて、母樹と見られる個体から 50 m圏内に分布していた。更新個体は、法面の辺縁部の林縁に近い箇所でより成長が良かったが、その要因は定かでなかった。更新個体の胸高直径と樹高の間には強い相関が見られ、 2020年 3月までに一度でも開花が認められたのは、胸高直径 10 cm、樹高 8mを超える 4個体であった。このうち 3個体は雄株であり、シュート構造から過去の樹高を推定すると、最初の開花時はいずれも樹高 8~ 9mであったと考えられた。一方、 2020年に初めて開花した更新個体は雌株で、既に樹高が約 10 mに達しており、雌株では雄株より開花開始サイズが大きいことが示唆された。最大サイズの個体では、樹高 11 mを超えた年から連年開花が見られるようになった。現在、隣接する天然林内の繁殖個体は雌株しか存在しないため、繁殖段階に達した更新個体は個体群の存続に大きく寄与することが期待される。

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