抄録
孤立化した照葉樹林における樹木個体群の構造変化を知る目的で,鹿児島県大口市にある3.4haの自然林内に設けた0.47haの調査区において1989年と2000年に毎木調査を行った.主要な樹種について樹高1.3m以上の幹を林冠木,亜高木,幼樹の3クラスに分け,サイズクラス別に11年間の幹数変化を分析した.調査区内の全52樹種を合わせた林冠木クラスの死亡率は加入率を上回り,変化率は-1.0%/年であった.最も優占的な高木種であるイスノキ(Distylium rocemosum)の個体群構造に大きな変化はなく,どのサイズクラスにも多数の幹がみられた.イスノキに次いで優占的なカシ類3樹種の個体群構造は1989年にはすでに亜高木クラス幹が少ない状態になっており.2000年では高木クラス,亜高木クラスとも幹数が減少した.また,いずれのカシ類でも幼樹サイズに加入した幹のほとんどは萌芽幹であり,椎樹バンクからの幹加入は極めて少なかった.照葉樹林を構成する主要な種群であるクスノキ科とツバキ科樹種の個体数は維持または増加した.これらの結果から不連続な個体群構造をもつカシ類は個体数を減らす可能性が高いと考えられたが,他の主要な構成樹種については40年以上孤立化が続いた時点でも大幅な個体数減少を予測させる傾向はみられなかった.本研究の結果からは孤立林分特有とみなせる構造や変化は検出されなかったが,低密度種の消失によって全体の種数が減少する兆候はみられた.多くの樹種において種子繁殖に由来する幹の加入が多数みられたことから,調査林分のようなケースでは当該林分が更新のコアとして機能できるうちに周辺の二次林等への侵入・定着を利用して多様性が高い林分の面積を拡大するのが望ましいといえる.