保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
情報理論からみた生態学的時系列の因果性: Granger因果、CCMからその先へ
鈴木 健大
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

論文ID: 2309

詳細
抄録

要旨:生態系の研究では、ランダム化比較実験や、大規模なコンピュータシミュレーションなど、他分野で因果関係の解明に使われている手法が利用できないか、有効でない場合がある。一方で、生態系モニタリングにおいては、センサーネットワークによる経時的な自動観測、衛星リモートセンシング、ドローンによる環境の走査等を通して、大規模データの利用可能性が飛躍的に向上しつつある。さらに、次世代シーケンシング技術による生物群集の網羅的観測技術の発展を通して、微生物実験系が複雑な生態学的ダイナミクスの重要な研究手段となりつつある。こうしたデータ取得技術の日進月歩の向上ととともに、因果関係をデータ駆動的に解明できる手法に寄せられる期待が高まっている。2012年にGeorge Sugiharaらによって提案されたCCM(convergent cross mapping)は、生態学者が時系列による因果推定に注目するきっかけとなった。CCMは1990年代に発展したカオス時系列の研究(非線形時系列解析)を背景としている。一方で、Granger因果や情報理論によるアプローチも、動的システムの因果推定の重要な手法として発展しており、神経科学や経済学などでは早くから利用されてきた。このように、時系列の因果推定は広範な分野を背景としており、それぞれの手法を使い分けるには、その長所と短所を正しく理解する必要がある。本稿では、情報理論によって統一的な観点を導入することで、生態学的ダイナミクスを対象にしたとき、Granger因果は各要素で生じた時間局所的な情報の不均衡を、CCMはアトラクタという大局的な時間構造における情報の不均衡を扱うことを見る。このような統一的な観点から、二つの異なるアプローチの間の技術的な相補性が認識されると同時に、生態学的ダイナミクスの研究にとって因果の多面性という新しい課題が現れてくる。生態系における因果性の解明は、学問領域の垣根を超える広い視点から新しいアプローチを生み出し、現実世界の複雑さに向き合うことによって進展していくのではないだろうか。

著者関連情報
© 著者

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
前の記事
feedback
Top