論文ID: 2410
2030年までの生物多様性の回復基調の実現を目指した新たな国際目標の決議によって、生物多様性の測定と定量的評価が世界的にも重要なテーマとなっている。本研究では、生物群集の「ネスト構造」に注目して選定した指標種の記録から、任意のサイトの生息環境の良好さの程度を評価できる手法を開発した。指標種の選定には全国で実施されているモニタリングサイト1000里地調査のデータを用いた。指標種の選定にあたっては、調査で記録された生物群集の種組成に「ネスト構造」があることを検証した上で、全国的な出現頻度に基づき指標種を選定した。また、記録される全種数との関係性の強さや分布の広さ、生態系タイプのバランスなどを基準に候補を選定した。その結果、専門家の判断を経て植物54種、鳥37種、チョウ22種を選定した。別のデータセットを用いた検証の結果からは、各調査地で記録できる指標種の種数と全種数および、指標種の希少度(全国での出現頻度の逆数の平均値)と絶滅危惧種数との間に有意な正の相関が認められた。ただし、選定した指標種の全種数・絶滅危惧種数への説明力は、ランダムに指標種を選定した場合の平均値と大きな差はなかった。生物多様性の定量的評価という視点からは最も優れている指標種セットではないものの、全種を調査するような従来の方法よりも少ない労力・専門性で、比較的広い地理的範囲・生態系タイプにおいてサイトの生態系の状態をある程度評価できる手法を開発できた。地域内での保全重要地域の把握や、保護区やOECMのモニタリングなどにも活用できるため、地域単位でのネイチャーポジティブの実現に資すると考えられる。