2024 年 23 巻 2 号 p. 81-90
代表的なブドウ香気の1つであるマスカット香の遺伝には複数の遺伝子座が関与するとされるが,過去になされた複数のQTL解析で共通して第5番連鎖群に主要なQTLが検出されている.そこで,本QTL領域の4つのSSRマーカーNifts5-50910,Nifts5-50929,Nifts5-50937,VVII52により,国内で育成されたマスカット香品種を含むブドウ36品種・系統の遺伝子型を解析したところ,すべてのマスカット香品種が1つのSSRハプロタイプ(LG5-Hap1)を保有していた.このハプロタイプは‘マスカットオブアレキサンドリア’から‘ネオマスカット’,‘甲斐路’を経由し‘白南’から‘シャインマスカット’へ遺伝していた.このLG5-Hap1を保有する個体は,既に報告されているマスカット香と連鎖するCAPSマーカーもマスカット型であった.次に,農研機構で育成された75組み合わせによる交雑実生個体145個体をマスカット香保有個体群と非保有個体群の2群に分割し,それぞれの群でハプロタイプ保有率を比較したところ,LG5-Hap1保有率はマスカット香個体群で有意に高く,毎年安定してマスカット香を発現する交雑実生個体は常にこのハプロタイプを保有していた.果実香気がマスカット香となるには複数の座の関与が不可欠であるが,第5連鎖群のQTLに関しては既存のCAPSマーカーとともにLG5-Hap1に示されたSSR多型もDNAマーカーとして利用することができる.