抄録
本稿は、1920年から1940年までの20年間にわたり、ほぼ毎年の増補改訂により発行が重ねられた『旅程と費用概算』(ジャパン・ツーリスト・ビューロー編)を研究対象として、その書誌的整理をすすめるとともに、戦前期の外地/植民地(樺太、台湾、朝鮮、満洲など)への旅程が、同書の中にどのように描かれたかについて整理し、分析するものである。『旅程と費用概算』は、東京などを起点とした旅行のモデルルートと、その旅程にかかる費用の概算、そして各旅程地の旅行案内が記されたもので、戦前期の日本を代表する旅行案内書であったと考えられる。そこに描かれた具体的な旅程は、東京近郊への日帰りや1泊2日の旅行から、北海道や九州を10日間から2週間かけて周遊するもの、さらには台湾や朝鮮、満洲などを周遊する旅程まで、さまざまである。これらの「旅程」を整理することで、近代期におけるツーリズム空間の実態を明らかにすることが可能であると考える。本稿ではそうした視点から、1931年版の『旅程と費用概算』を任意にとりあげ、北海道・樺太、台湾、朝鮮半島、そして満洲への旅程を具体的に検討した。