印度學佛教學研究
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玄奘,バーヴィヴェーカ,ディグナーガ
―― 「簡別立宗」(*pratijnavisesana)について――
何 歓歓
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2014 年 62 巻 3 号 p. 1230-1235

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抄録

『大乗掌珍論』は玄奘(600/602-664)が翻訳したバーヴィヴェーカ(清弁,490-570頃)の代表作の一つである.バーヴィヴェーカは「掌珍比量」と呼ばれる三支から成る論式によって中観派の空の証明を試みた.その中で使用された「真性」(*tattvatas)という表現は論証の中の「主張命題」(*pratijna)を限定する語で,論理的に重要な意味と役割が与えられている.すなわち,「簡別立宗」(*pratijnavisesana)と玄奘が翻訳した意味と役割である.また,基の『因明入正理門論疏』などに言及されるように,玄奘は,インドの瑜伽行派が唯識説を証明する際に用いた「唯識比量」と呼ばれる三支論式についても,バーヴィヴェーカと同様に,「真故」(*tattvatas)という語が「主張命題」(*pratijna)を限定しているという.本論文は,基が伝えた玄奘による「真故」の用法,すなわち,「簡別立宗」の意味と役割がバーヴィヴェーカの「真性」に遡ることを例証した.ディグナーガ(480-540頃)の著書には「簡別立宗」を見出すことはできない.これに対して,バーヴィヴェーカ作・玄奘訳の『大乗掌珍論』と,サンスクリットテキストが伝承される同じバーヴィヴェーカ作の『中観心論』,およびチベット語訳にのみ伝わるその注釈『論理の炎論』では,多くの論証式においてtattvatas/paramarthatasあるいは「真性」の語が主張命題に限定を加えている.すなわち,これらの同義の限定語は,ディグナーガが指摘した主張命題の「現量相違」と「世間相違」を避け,ディグナーガが規定した論理学上のルールに従った議論を展開するために,バーヴィヴェーカが採用した特別な論理的術語であることが分かる.本稿は,媒介者としてのディグナーガの論理学を通して,バーヴィヴェーカと玄突との学問上の,とくに論理学上の関係に新たな考察を加えた.

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© 2014 日本印度学仏教学会
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