2021 年 69 巻 3 号 p. 1079-1086
『入中論』(Madhyamakāvatāra,以下MA)と『プラサンナパダー』(Prasannapadā,以下Pras)とは,ともに中観派を自認するチャンドラキールティ(Candrakīrti月称)による中観論書である.本論文では,MAにおける最後の5偈とPrasの帰敬偈とを比較し,両書の関係を明らかにするものである.まず,MAの章構成について確認した.その結果,MAで取り扱われている13のトピックそれぞれが,章を構成しているかどうかは検討の余地があることを指摘した.次に,MAにおける最後の5偈とPrasの帰敬偈とを比較した.いずれも「龍樹の讃嘆」という内容であり,共通の語がいくつか用いられていることから,MAとPrasとは緊密な関係にあると結論づけた.ただし,MAに用いられている「学説(prakriyā)」という語がPrasの本文に用いられていないことから,MAとPrasとでは,対象とする読者が異なっていると想定した.このことはMadhyamakaśāstrastutiにおける用例からも支持されるであろう.