抄録
本稿では,個人間での疾病リスクの多様性を考慮したモデルを構築し,効率性および公平性の観点から混合診療の禁止と特定療養費制度で適用される差額徴収ルールとの制度比較分析を行う。本稿で得られる主要な結論は以下の通りである。第1に,混合診療の禁止は,相対的に高リスクの個人の受診量を抑制させる効果を持ち,国民皆保険の制度的理念である個人間での平等性とは相反する効果を有する可能性がある。第2に,平均的所得水準が高まるほど,相対的に高リスクの個人が多くなるほど,さらには,相対的に高リスクの個人の疾病確率が高くなるほど,差額徴収ルール(特定療養費制度)の適用は社会厚生を改善させる傾向を持つ。第3に,診療報酬が十分に医療費用を補填していないとき,保険外診療における医療機関の価格決定力を考慮するならば,特定療養費制度における社会厚生の改善効果は小さくなる可能性がある。このことから,適切な診療報酬体系の設計は,特定療養費制度の弾力的運用にとって極めて重要であることが示唆される。