日本画像学会誌
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論文
分子間水素結合を形成したインジゴ顔料の電子構造
—キナクリドンならびにピロロピロール顔料との比較—
水口 仁遠藤 彩映松本 真哉
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2000 年 39 巻 2 号 p. 94-102

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抄録
インジゴには助色団として2対のNH基(ドナー)とC=O基(アクセプター)が存在し,インジゴ分子間にはNH…Oの水素結合が形成されている.この種の水素結合系顔料としてキナクリドン(QA)やピロロピロール(DPP)が知られている.QAとDPPは溶液状態では淡い黄色であるが,固体状態では鮮やかに赤に発色する.つまり,結晶化の際に吸収バンドが大きく長波長にシフトする.これに対し,インジゴは溶液でも青に着色しており,結晶化に伴う吸収バンドの長波長化の程度はQA,DPPに比べると格段に小さい.このメカニズムを解明する目的でインジゴの電子構造を分子構造,結晶構造,分子間相互作用の立場から検討した.光励起により分子上に出現する遷移モーメントの方向は,インジゴでは長軸方向にあり,QAとDPPでは逆に短軸方向にあることが判った.インジゴの長軸方向は光励起に伴う電子の移動が容易で空間的にも広く分布できることから,溶液状態では可視域に吸収バンドを示し青色を呈する.また,固体状態では遷移モーメント間の相互作用(“励起子結合効果”)が重要で,QAやDPPの結晶構造では典型的な“head-to-tail”型の配置が可能となるので大きな長波長化が期待できる.しかし,インジゴ分子はこのような配置をとらず,結晶化に伴う吸収バンドの長波長化が小さいことが明らかになった.
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© 2000 一般社団法人 日本画像学会
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