抄録
多くの生理学的研究で,初期視覚領野の受容野計測に逆相関法が用いられている.近年,この逆相関法が,心理物理学的な研究にも応用され始めている.生理実験では単一ニューロンの線形フィルタとしての特性が測定対象となるのに対し,心理実験では被験者の認知判断に関わる脳内メカニズム全体が測定対象となる.この脳内メカニズムは,一般に複数のニューロンが相互に結合したネットワークで構成されるため,複雑で非線形な特性を持つと考えられる.このため,心理物理学的な逆相関法においては,システムの非線形性を考慮した分析が必要になる.本研究では,心理物理学的逆相関法による非線形特性の分析手法を定式化するとともに,運動視の視覚心理実験を模した数値シミュレーションを行い,その実験的応用について議論する.