「考え事」のような,目的とする作業とは異なる対象に注意が奪われている状態では,覚醒水準とは無関係に判断や応答などの認知パフォーマンスが低下するため,判断ミスなどのヒューマンエラーによる事故をもたらす危険性が高くなる.しかしながら,作業者がそうした状態に陥っていることを検出することは極めて困難であるため,実効性のある対策技術は未だ確立されていない.本研究では,課題非依存性思考状態が,認知パフォーマンスに与える影響の客観的な評価を目的として,あらかじめ提示された特定の色と数字の組み合わせについての記憶を維持しつつ,同時に課せられた視覚探索課題を遂行する際の,目標探索時間や眼球運動の諸特性の変化を解析した.実験の結果,ナイーブな被験者は,課題に習熟した被験者とは異なり,考え事をしている場合の方が目標探索時間とサッカード間隔が長くなり,この時,サッカード発生頻度が低下することが示された.また,マイクロサッカード発生頻度は,すべての被験者で考え事をしている場合の方が多くなる傾向か示された.このことから,考え事によって,探索のために効率的な眼球運動の統制に乱れが生じていることが示され,課題非依存性思考状態のモニタリングの可能性が示唆された.
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