抄録
本稿の目的は,金融負債の公正価値測定の問題を解決するための一つの視点を提起することである。金融負債を公正価値で測定すると,信用リスクが高まった場合に直観に反する評価益が計上されることが問題となる。しかし,公正価値測定を支持する見解からは,公正価値で測定しなければ,株主が有する請求権の価値の減少が過大に示されるということが問題とされる。このような問題に対しては,資産の測定値と負債の公正価値とのマッチングが重要になると考えられる。
そして,マッチング原則に照らし合わせると,公正価値で測定される資産のみから弁済される金融負債は,公正価値で測定すべきということになる。また,弁済にそのような限定のない金融負債については,公正価値ではなく信用リスクの変化を反映しない測定値を適用し,信用リスクの変化を財務諸表で示すのではなく,信用リスクの変化による影響について財務諸表利用者の評価に委ねるべきである。