抄録
最終補綴を装着する顎位は咬頭嵌合位を基準位として用いるケースが大半であるが,これはあくまでも咬頭嵌合位がつねに機能的,形態的に正常であるとの認識の上に成りたっているに過ぎない.河村は咀嚼筋・顎関節・歯の3要素と咀嚼筋が支配している神経を機能的咬合系と名付け,これらの要素によって調和がとれ機能することの重要性を説いた.咬頭嵌合位は上下顎の歯が最大接触面積で嵌合するもっとも安定した顎位で,下顎窩内での顆頭と関節円板との位置関係が安定し,しかも神経筋機構とも調和がとれていなければならない.さらに,中心位とのずれが少ないほうがより望ましい.しかし,う触や重度の咬耗や歯周病により歯の傾斜・移動や欠損が進行してくると,正常な咬頭嵌合位が除々に崩壊し不安定になり,筋の過緊張を起こす.このように崩壊していく過程の中での下顎位を信じ,その場しのぎの対症治療的な補綴を行った結果,顎口腔系はもちろん,全身的にも何らかの機能異常が発症する場合がある.そのため,中心位における診断用ワックスアップに基づいたプロビジョナルレストレーションで咬合状態を長期的に観察し,付与した下顎位に間題がないことを確認して,最終補綴を装着する.その上で,長期的な経過から咬合治療の妥当性を検証することが重要になってくるものと思われる.