抄録
水酸化カルシウムは殺菌効果や硬組織形成能などを示すが,殺菌効果を越えた感染源が残存していると硬組織形成は起こらない.穿孔は感染源除去を困難にし,脆化から歯の喪失につながる疾患である.穿孔の治療成功率は歯科用顕微鏡の利用やバイオセラミックス系材料により上昇したとの報告がある.しかし,感染源が残存する場合には,バイオセラミックス系材料であろうとも,十分な治癒が得られないことがある.そこで,穿孔部に水酸化カルシウム製剤を応用して,歯槽骨透過像から感染状態の評価を行い良好な結果を得たので,文献的な考察を加えて報告する.症例:初診時(2012 年)64 歳,女性.下顎左側第一大臼歯の疼痛を主訴に来院した.エックス線写真より近心・遠心根根尖にびまん性透過像と,分岐部直下に透過像を認めた.髄床底部穿孔と急性根尖膿瘍に伴う分岐部病変と診断して,根管治療と穿孔治療を行った.穿孔部に水酸化カルシウム製剤を貼薬した.2 カ月後に分岐部直下の透過像の改善と,穿孔部の硬組織形成を確認したので接着性レジンで封鎖した.10 年以上臨床症状はなく良好に経過している.考察および結論:髄床底部穿孔と急性根尖膿瘍に伴う分岐部病変に罹患した下顎第一大臼歯に対して,非外科的根管治療を行い,水酸化カルシウム製剤応用によって硬組織が穿孔部を封鎖させた症例の詳細を報告した.穿孔封鎖の予後成績は,初回の根管治療の成功率に及ばないことから,穿孔を発生させないことが最も重要である.穿孔を認めた際には,バイオセラミックス系材料を妄信せずに感染源を確実に除去し,適切な時期に緊密に封鎖する必要がある.本症例より,穿孔部からの感染の残存を判断するために水酸化カルシウム製剤を用いた待機的診断は有効であることが示唆された.