日本地域看護学会誌
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Print ISSN : 1346-9657
訪問(在宅)看護をめぐる看護職の法的責任
高波 澄子
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2000 年 2 巻 1 号 p. 80-86

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抄録

社会的・経済的背景が医療の場を施設から家庭へと向かわせている.このような状況にあって,実際に訪問看護に従事する看護婦等はどのような法的立場で業務を遂行しているのか.さらに,訪問看護の過程で過誤をおかした場合,いかなる責任か課せられるのか.そして,訪問看護においては,どのような看護過誤が予測され,それらは,いかに克服されるべきなのか.老人保健法や母子保健法等の法律が,市町村や保健所,指定訪問看護事業者等に課すところの適切な訪問看護(指導)を提供するという責務の履行を,看護婦等は,市町村,保健所,指定訪問看護事業者等の被用者という立場で補助している.すなわち,看護婦等の多くは,使用者である機関が負う責務の履行補助者として訪問看護に携わっているのである.そこで,看護婦等が,訪問看護の過程で過誤をおかして対象者に不利益を与えた場合,そこから生じる損害の賠償責任は,民法715条,または415条により看護婦等の使用者にある場合が多い.訪問看護は,医師が同行しない患者の居宅で単独で行われることから,施設内看護とは,人的・物的条件に大きな違いがある.実際に,老人保健法や健康保険法を適用して利用者に行われている訪問看護の内容を見ると,「利用者の症状観察」や「家族の介護指導」が,ほとんどにおいてなされている.さらに,医療的処置もかなり多い.そこで,これらの訪問看護にはどのような看護過誤が予測されるかを,従来の医療(看護)過誤裁判例を素材に検討した.結論は次のようになろう.在宅という限られた環境の中でさまざまな状況にある利用者に看護を提供する看護婦等の責務は非常に大きい.看護婦等個人の専門的知識,技能が求められるのはもちろんのこと,当該利用者の看護に当たり予測し得る悪しき結果の発生を回避するために万全を尽くすべきである.

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© 2000 一般社団法人 日本地域看護学会
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