本研究の目的は,学生の起業意思とロールモデルの関係について明らかにすることであった.大学1年生834名を対象として質問紙調査行い,次の2点の解明を試みた.第1に,大学生の起業意思と育成環境における多様な起業家ロールモデルの存在の関係について検討した.その結果,親,親族,及び知人・友人の起業家ロールモデルの存在が,学生の起業意思を促すことが示された.一方で,身近ではない他者や架空の人物の起業家の存在の有無は起業意思に影響していなかった.第2に,“弱い結びつきのロールモデル”と位置付けられる起業家が学生の起業意思に与える影響について,起業家講演を事例として,その前後の学生の考えの変化を分析することにより評価した.その結果,講演を通して学生の起業意思が促されたことが分かり,そのプロセスにはロールモデルとしての多岐に亘る効果が介在する可能性が見いだされた.“弱い結びつきのロールモデル”に関する上の2つの結果の相違についても考察した.