東日本大震災以降,これまで行われていた東海地震予知のような地震発生の「確定的な」予測は困難であるとの国の方針転換が行われ,東海地震情報の提供が中止された.その代わりに「不確実な」地震予測である「南海トラフ地震情報」が導入された.本論では,南海トラフ地震情報においては,災害予測情報を運用する上での根本的な「考え方の転換」が行われていることを,国の文書等を用いてつまびらかにする.それは「予測精度は低いが,防災対応の開始のトリガーとなる地震学的情報は出すこと」,しかし「防災対応の解除のトリガーとなる地震学的情報は出さないこと」を趣旨とするものである.こうした「考え方の転換」に照らして,現在進められている南海トラフ地震情報を用いた防災対応において不十分な点を整理するとともに,今後,取り組むべき課題について提示する.