経済地理学年報
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過大な基本高水と河川の管理瑕疵
―大東基準が生み出す,「無責任の穴」―
梶原 健嗣
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2018 年 64 巻 2 号 p. 113-120

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抄録

    日本の治水計画は,河川整備基本方針で長期的なグランドデザインを定め,河川整備計画で,今後20~30年間の具体的な計画を定める.この中で,核となるのは治水計画の想定洪水=基本高水とそのピーク流量(基本高水流量)である.
    この基本高水流量の決定に際し,決定的な影響力を持っているのが貯留関数法という「治水の科学」である.しかし,その算定では過大な流量が導き出される恐れがある.あるいは,治水計画に事業計画が対応せず,「半永久的に未完の治水計画」になる場合もある.
    では,そうした河川で水害が起きた際に,河川の管理瑕疵は問われるのか.水害訴訟は,本来は,被害者救済とともに行政の瑕疵・責任を検証しうる制度として期待されたはずである.しかし,初の最高裁判断となった大東水害訴訟判決により,この期待は機能不全となってしまっている.大東基準として確立した法理に照らせば,「過大な基本高水」の下では,河川管理責任はブラックボックス化しかねないのである.

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© 2018 経済地理学会
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