教育メディア研究
Online ISSN : 2424-2527
Print ISSN : 1340-9352
ISSN-L : 1340-9352
シンキングツール導入4年後にみられた中国の授業実践の評価
相互行為の視点から組織化に着目して
三宅 貴久子岸 磨貴子久保田 賢一李 克東
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2017 年 24 巻 1 号 p. 43-56

詳細
抄録

本研究の目的は,シンキングツールの活用を進める中国の小学校において,児童が主体的に考える授業場面を,教師はどのように組織しているのかを明らかにすることである。筆者らは4年間にわたり,思考力育成のための授業研究を日中間で継続して行ってきた。本研究では,共同研究に参加している協力校の中から,一名の中国人教師が実施した国語科の1コマの授業を対象とし,授業を撮影したビデオ映像・教師と児童の会話を記録した音声・フィールドノート・インタビューを通してデータを収集し,どのように児童が主体的に考える授業場面を組織しているかを,相互行為の視点で分析した。分析の結果,中国人教師は,1)児童と共同的に授業進行のルール作りと意思決定をしていたこと,2)児童が思考活動から逸脱しないように,掲示物やシンキングツールなどの教材を用いて学習活動を展開していたこと,3)児童の情意への働きかけを行なっていたこと,4)授業後半では,時間内に活動を完了するように教師主導で進めていたことによって,授業場面を組織していたことが確認できた。以上のことから,児童が主体的に思考できるように,教師は児童との相互行為を通して,授業場面という社会的文脈を組織していたことがわかった。一方で,学校やカリキュラムといった制度的制限を受けるため,一部を教師主導で進めており,授業に児童主体と教師主導の2つの異なるアプローチが混在していたことがわかった。本研究では,中国人教師が自ら置かれている制度的な制限の中で,新しいツールを活用した授業の進め方を,児童との相互行為を通して社会的に意味づけ,組織していたことを明らかにすることができた。

著者関連情報
© 2017 日本教育メディア学会
前の記事 次の記事
feedback
Top