ジャガイモの加工特性は,原料ジャガイモの比重(水分含量)に大きく左右される。水分は大きな比熱をもつため,ジャガイモの比重が蒸熱中の吸熱作用に影響を与えることが予想される。また,ジャガイモ中の酵素が,加熱中の構成成分の改変に影響することも予測される。本報告では,比重の異なる2群(高および低比重)のジャガイモについて,加熱中の品温上昇を測定するとともに,ジャガイモの主要成分であるデンプンの酵素的分解の様相を検討した。その結果,加熱処理中,低比重試料では,内部温度の上昇が比較的緩やかであり,加熱中の酵素失活が比較的長時間抑えられることが予想された。そこで,生鮮時および蒸熱後のデンプン分解産物の量を比較したところ,蒸熱過程でジャガイモ中のデンプンが分解していることが示された。また,分解産物の増加は,低比重群において顕著にみられた。すなわち,低比重試料では,内在性のデンプン分解酵素活性が比較的安定であるため,蒸熱処理中により多くのデンプンが分解されるものと考えられた。また,両ジャガイモ中のデンプン分解酵素活性は,いずれも低比重試料において高い活性がみられた。一方,ジャガイモを細かく裁断した後,加熱した場合,デンプン分解産物の増加が抑えられた。以上の結果から,蒸熱過程のジャガイモの品温を制御することにより内在酵素の作用を調整し,蒸熱ジャガイモの物性を制御することが可能であると考えられた。