2023 年 49 巻 5 号 p. 255-261
歯周炎は世界的な健康問題の一つである。これまでに歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)由来のリポポリサッカライド(以下,P.g.-LPS)は,炎症性サイトカインを介し,最終的に骨吸収能をあげることで歯の損失につながることが明らかとなっている。これまでに我々は未利用資源としてソバ甘皮粉を用い,その加水分解物中ペプチドの同定と機能性に関して研究を進めているが,歯周炎症抑制効果については検討を行っていない。そこで本研究では,ヒト由来歯肉線維芽(Human GF)細胞を用いて,ソバ甘皮粉加水分解物(以下,BBFHP)がP.g.-LPSによる歯肉炎症を抑制するか否かについて明らかにすることを目的とした。まず初めに,HGF細胞に対するBBFHPの細胞毒性評価を行った結果,本試験で用いた30μg/mℓまで細胞毒性を示さなかった。続いて,P.g.-LPS刺激したHGF細胞に対するBBFHPによる炎症性サイトカイン類(IL-6,IL-8,IL-1β,TLR4およびTNF-α)の遺伝子発現について解析した結果,P.g.-LPS刺激による増加した全ての炎症性サイトカイン類の遺伝子発現はBBFHPにより有意に抑制された。同様に,NF-κBシグナルの活性化指標であるIKKαの分解ならびにリン酸化p65の核内移行もBBFHP抽出物処理により有意に抑制された。以上より,ヒト歯肉繊維芽細胞において,BBFHP抽出物はP.g.-LPS誘導性炎症性メディエーター群ならびにNF-κBシグナルの不活性化を誘導することで歯肉炎症を抑制することを明らかにした。