抄録
化学的修飾によりタンパク質の機能の改善を試みる多くの研究はこれまでもなされてきたが, 克服すべき問題がいくつかあった。特に食品添加物や医薬品としての実用を目指す場合, 作成された新規タンパク質が人体に与える影響の安全性確保の面からみても化学薬品を使った化学修飾法は適当とは言い難い。このような背景のもと, 糖類をタンパク質に修飾させる方法としてMaillard反応を利用する方法が提言された。そこでMaillard反応による新規抗菌性タンパク質の作成を目的とし, 食品由来抗菌性タンパク質である卵白リゾチームの糖複合体を作成した。これには, (1) 溶菌活性の高進, (2) 熱・酸・アルカリに対する安定性, (3) 乳化特性の向上, (4) グラム陰性菌に対する抗菌性の獲得などが認められた。リゾチーム多糖複合体は代表的発酵食品であるナチュラルチーズ中に混入した腐敗性細菌の増殖を抑制し, ナチュラルチーズの保存期間を延長することが可能と考えられる。さらに牛乳ラクトフェリンについて同様の方法を適用することで, 強力な抗菌性タンパク質の作成に成功した。ラクトフェリン多糖複合体の細菌に対する抗菌能力はリゾチーム多糖複合体のそれよりも優れていることが示唆され, タンパク質とこれに修飾させる糖の選択的組み合わせにより, 食品保存料を含め多様な作用ももつ新規タンパク質の作成が可能であると予想される。
次にリゾチーム糖複合体の新規作成方法を検討した。通常環境下でのMaillard反応では数週間の反応期間が必要であり, そのうえ副産物であるメラノイジンの生成によって起き溶解性が低下する。これを解決する策として溶液条件下での複合体化を提案し, さらに反応を促進させるため高圧処理の導入を検討した。高圧処理は反応時間を短縮させメラノイジンの生成を抑制し溶解性低下を抑制した。高圧処理はタンパク質ハイブリッド法のひとつの手法として適用可能であると考えられた。
リゾチーム糖複合体を作成するための高圧処理の最適条件検索のためにrandom-centroid optimization (RCO) programを使用した。RCO programは遺伝アルゴリズム最適化法などに代表される多くの検索件数と数学的トレーニングを必要とする従来の最適条件検索プログラムとは異なり, 少ない検索件数と簡単なトレーニングで最適条件を検出できることに特色がある。すなわち実際の生化学的研究分野で最適条件を検出するプログラムとして高い適用性があるといえる。わずか20回の検索で5項目について最適条件を決定することができ, 約10%のリゾチームが糖と複合体化することが認められた。