抄録
Streptomyces sp. N174およびBacillus circulans MH-K1由来のキトサナーゼの基質結合機構を明らかにするために, 部位特異的変異導入, 熱変性実験および蛍光実験などの方法を用いて, 基質結合に関与するアミノ酸残基の同定を試みた. Streptomyces sp. N174キトサナーゼの場合, X線結晶構造およびその構造中における静電ポテンシャル分布よりAsp57が基質結合に関与するアミノ酸残基として最も可能性が高いと考えられた. そこで, この酸性アミノ酸残基を特異的に変異させたキトサナーゼを生産し, その酵素学的性質を調べた. Asp57変異酵素 (D57A) の酵素活性を調べてみると, 野生型と比べ著しく減少した (0.5%). 野生型では, キトサンの結合に伴い熱変性の転移温度がかなり高くなるのに対し, D57Aでは大きな転移温度の上昇はみられなかった. 明らかにAsp57は基質結合に関与する重要なアミノ酸であることがわかった. 本酵素によるオリゴ糖加水分解反応のモデリングを行い, 各サブサイトの親和力を推定してみたところ, Asp57の変異は (-2) サブサイトの親和力に大きく影響することがわかった. Bacillus circulans MH-K1キトサナーゼの場合, クレフト内に存在する唯一の芳香族アミノ酸であるTyr148の部位特異的変異を行い (Y148S), また, 基質結合クレフトの開口部分に存在するLys218の変異も行い (K218P), これら変異酵素の解析を行った. それらの変異酵素の蛍光スペクトル変化に基づいて, 基質結合性を調べてみたところ, Y148Sは1.0 kcal/molほど, K218Pは3.6 kcal/molほどの基質結合力の減少が起こっていた. 以上より, Tyr148は基質のピラノース環と有意に相互作用を行っていること, および, クレフト開口部に存在するLys218を含むループ構造は基質結合に重要であることがわかった.