対照研究は言語学の単なる一分野に留まらない.対照という方法は言語研究の根幹をなす.差異とは対照することによって得られるものだからである.既に多くの優れた事例研究を獲得している対照研究において,現在必要なのは,対照研究の原理論の構築である.〈何を,いかに対照するのか〉という問いを問うには,〈言語はいかに在るか〉即ち〈言語はいかに実現するか〉という存在論的な視座からことばそのもののありようを照らすことが,不可欠の要諦である.ことばとして形に現れたものと,そうでないもの,とりわけ言語未生以前のものとを峻別し,言語の形而上学を排すこと.言語を単なる「コミュニケーションの道具」に矮小化する言語道具観や,言語は何かの目的のために行われるとする目的論的言語観の原理的な危うさを見切ること.言語を単なる記号論的な対象として見るのではなく,言語が実際に行われる言語場に着目し,人間の存在の深いところに係わるものとしての言語を,見据えねばならない.