医療情報学
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研究速報
医療・保健情報システムからのエビデンス抽出に関する研究
大櫛 陽一柴田 健雄春木 康男
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2007 年 27 巻 3 号 p. 277-284

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抄録
 【はじめに】我々は病院での情報システムの開発を行い,オーダエントリーシステムや電子カルテを構築して,膨大な医療データを蓄積できるようになっている.また,健診システムや地域保健情報システムを開発して,長期間にわたる保健データを蓄積している.本稿では,これらのデータベースからいかにすればエビデンスを抽出できるかについて,著者の事例に基づいて論ずる.【方法】まず,大規模調査のようなある1時点でのデータからのエビデンス抽出(横断的データ)について議論する.この具体例として,全国45施設での70万人の健診結果を用いた研究について述べている.次に,業務データベースのように個人の長期間にわたるデータからのエビデンス抽出における問題について論ずる.この具体例として,市町村と職場の健診結果と住民登録での異動情報を用いたコホート研究について述べる.これらの結果から高脂血症,糖尿病,高血圧,肥満およびメタボリックシンドロームの診断基準や,2008年から実施が予定されている特定健診判定基準の検証が可能であったことを示す.【結果】基準集団のデータは,特殊なデータを除いて正規分布することが分かった.正規分布するデータの時間的経過はエルゴード性を持ち,コホート研究における対照群の結果と一致する.つまり,基準集団の統計学的パラメータは,空間軸および時間軸で一致する.このことは,横断的研究のエビデンスを,コホート研究のエビデンスが裏付けていることからも判明した.【まとめ】大量のデータを蓄積するだけではエビデンスの抽出は困難である.横断的研究では,異常者バイアス,個人特性によるバイアスなどを除くために,性別,年齢別に基準集団を抽出して解析することが必要である.業務データからコホート研究を行うには,アウトカムを把握するためにフォローアップ・システムが不可欠である.
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© 2007 一般社団法人 日本医療情報学会
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