医療情報学
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27 巻, 3 号
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総説
第11回日本医療情報学会春季学術大会 企画セッション(シンポジウム)
  • 稲岡 則子, 紀ノ定 保臣, 宇都 由美子, 石原 謙, 伏見 清秀
    2007 年27 巻3 号 p. 261-268
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     近年,情報化の進展に伴い,医療機関におけるデータの「利活用」は,経営やアウトカム評価,各分野の意志決定支援,教育・研究においてその重要性が増している.一方,医療分野におけるデータウェアハウス(DWH:Data Warehouse)は,1990年代後半より構築の必要性が言われて久しいが,現実に導入して十分活用している施設はまだ多くない.エビデンスに基づく医療を実現しPDCAサイクルを継続的にまわしていくには,業務プロセスを通じて発生する多種多様で大量なデータのソースからデータ収集・統合し,蓄積し,そして分析・可視化して活用するDWHのしくみ作りを推進していく必要がある.
     本シンポジウムでは,DWH構築や医療情報利活用の実践的な取り組みを行っている病院やグループの事例・経験を通じて,「データ」の質の重要性,DWH構築および分析・可視化における課題,そして今後の医療DWHの展望について論じる.
     1.データウェアハウスと看護情報
      宇都由美子:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 医療システム情報学講座
     2.エビデンスに基づく日本の医療の真の姿,そして不足データは何か
      石原 謙:愛媛大学大学院医学系研究科 医学専攻 医療情報学
     3.データウェアハウスと Information-based Management
      紀ノ定保臣:岐阜大学大学院医学系研究科 医療情報学分野
     4.国立大学附属病院データを用いたベンチマーキングについて
      伏見清秀:東京医科歯科大学 医療政策学講座 医療情報・システム学分野
  • 豊田 建
    2007 年27 巻3 号 p. 269-276
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     保健医療情報の国際的な標準規格を制定するために,1998年にISO/TC215が発足してから,来年で10年を迎える.この間,当初4つであったWGも現在では8つとなり,すでに出版されている標準規格(IS)や準標準規格(TS),技術レポート(TR)も多く,実際の病院情報システムの開発にも影響を与えてきている.特に,日本でもいよいよ具体的な導入が始まりつつあるEHRにおいては,ISO/TC215の規格を抜きにしては考えられない.
     このような状況のなかで,従来から医療情報関連の標準の開発を行ってきたHL7やヨーロッパの標準規格機構であるCEN/TC251との関係も課題となってきた.
     一昨年,ISO/TC215が主催して浜松で開催された第1回保健医療情報標準化サミットを契機に,世界の標準作成団体(SDO:Standard Development Organization)の協調の必要性が認識された.その後,ISO/TC215,HL7,CEN/TC251の3者での会合が重ねられ,2007年4月28日にケルンで開催された3者の調整会議で覚書の原案がまとまり,8月末には各組織においての最終承認がされている.
     本稿では,ISO/TC215の活動を紹介するとともに,現在進められている,ISO/TC215,HL7,CEN/TC251の3者で進められている協調の内容を中心に,今後のグローバルな保健医療情報の標準化について紹介する.
研究速報
  • 大櫛 陽一, 柴田 健雄, 春木 康男
    2007 年27 巻3 号 p. 277-284
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     【はじめに】我々は病院での情報システムの開発を行い,オーダエントリーシステムや電子カルテを構築して,膨大な医療データを蓄積できるようになっている.また,健診システムや地域保健情報システムを開発して,長期間にわたる保健データを蓄積している.本稿では,これらのデータベースからいかにすればエビデンスを抽出できるかについて,著者の事例に基づいて論ずる.【方法】まず,大規模調査のようなある1時点でのデータからのエビデンス抽出(横断的データ)について議論する.この具体例として,全国45施設での70万人の健診結果を用いた研究について述べている.次に,業務データベースのように個人の長期間にわたるデータからのエビデンス抽出における問題について論ずる.この具体例として,市町村と職場の健診結果と住民登録での異動情報を用いたコホート研究について述べる.これらの結果から高脂血症,糖尿病,高血圧,肥満およびメタボリックシンドロームの診断基準や,2008年から実施が予定されている特定健診判定基準の検証が可能であったことを示す.【結果】基準集団のデータは,特殊なデータを除いて正規分布することが分かった.正規分布するデータの時間的経過はエルゴード性を持ち,コホート研究における対照群の結果と一致する.つまり,基準集団の統計学的パラメータは,空間軸および時間軸で一致する.このことは,横断的研究のエビデンスを,コホート研究のエビデンスが裏付けていることからも判明した.【まとめ】大量のデータを蓄積するだけではエビデンスの抽出は困難である.横断的研究では,異常者バイアス,個人特性によるバイアスなどを除くために,性別,年齢別に基準集団を抽出して解析することが必要である.業務データからコホート研究を行うには,アウトカムを把握するためにフォローアップ・システムが不可欠である.
  • 齊藤 充則, 綱川 弘文, 鈴木 真人, 吉澤 哲也, 黒崎 馨
    2007 年27 巻3 号 p. 285-288
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     病院情報システム(HIS)からオンラインで部門システム(今回はRIS),検査装置(Modality),保管装置(PACS)へと情報が伝わる系において,それぞれのサブシステムが扱える日本語文字種にバラエティが存在する.DICOM規格やHL7規格が定める使用可能な日本語文字種の組み合わせは1通りとは限らず,サブシステム間での日本語文字の交換で問題を起こす場合が少なくない.本発表では,上記に関連して過去に経験した事例をとりあげ,どのように調整したかの解決策を報告する.また日本語を含む患者基本情報のうち,特に患者氏名について現在用いられている日本語文字種の組み合わせを示し,ローマ字と全角漢字もしくは全角ひらがな / カタカナの組み合わせを標準構成として提案する.
  • 寺下 貴美, 佐藤 ひとみ, 遠藤 晃, 石井 英樹, 上杉 正人, 西本 尚樹, 谷川 琢海, 孫 芹先, 小笠原 克彦, 櫻井 恒太郎
    2007 年27 巻3 号 p. 289-296
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     我々はこれまでに,看護師のタイムスタディデータより新たな情報を抽出することを目的として,業務の周期に着目して時系列データに周波数解析を行い看護業務に内在する周期的特徴を抽出し報告した.今回我々は特定の業務が時間的に連続しているかまたは分散しているかを想定したシミュレーションデータを作成して同様の解析を行った.この結果を基に,実際の業務改善の前後に行ったタイムスタディの分析結果を比較することにより,この分析手法が業務改善の評価に有効であるかどうかを検討した.シミュレーションデータは1分単位で記録された実際の業務の項目別の量に基づいて作成した.セグメント時系列解析はシミュレーションデータ,実データともにセグメント区間を24時間(1,440点),セグメントのシフトを1時間(60点)として2日分(2,880点)のデータに対し行った.パワースペクトルの算出には最大エントロピー法を用いた.シミュレーションデータの分析の結果,得られた周期は短周期領域と中・長周期領域に分けられ,短周期領域では周期の変化を詳細に認識することができ,中・長周期領域では中・長期の傾向として認識することができるなど,想定した病棟での業務の連続化を反映する変化を読み取ることができた.時間的な集中や分散を目的とする業務改善の場合,業務改善前後に収集したタイムスタディを本法で解析し比較することで,業務の変更による周期的な変化を視覚的に観察することが可能である.今後,この分析手法は業務変化の影響を観察するシミュレータとして応用を拡大することも期待できる.
  • 土居 茂雄, 島井 健一郎, 津崎 久宣, 大野 実, 野口 邦晴, 平澤 英紀, 細田 高
    2007 年27 巻3 号 p. 297-303
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     昨今,医療連携が複数の地域で推進されている.医療連携の形態は様々であるが,地域医療という観点からは,各医療機関の役割を明確化する必要がある.このための一手法として,地域における患者動態の分析が考えられる.地域における患者動態を観察するためには,病院間での患者紹介の際に用いる診療情報提供書を利用できる.紹介患者の動態分析からは,他院から見た自院の特徴となる診療科や疾患が把握できる.
     本研究では,まず単一の医療機関での診療情報提供書の紹介元医療機関と地区を取得できるようなシステムを導入した.つづいてこのシステムから取得できるデータを,別途病院で取得しているDPC(Diagnosis Procedure Combination)のデータと組み合わせ,MDC(Major Diagnosis Category)分類の分布を求めた.また,MDC分類のうち循環器系疾患に着目し,その中でのDPC傷病分類の分布を求めた.最後に,紹介数の多いDPC傷病分類について,どの地区の医療機関からの紹介が多いかを分析した.その結果,DPC傷病分類により紹介元医療機関の地区の分布が異なることが示唆された.
  • 高橋 哲也, 赤坂 圭子, 右川 浩, 鶴田 勝, 土橋 利津子, 目崎 高志, 松嶋 登, 水越 康介
    2007 年27 巻3 号 p. 305-313
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     本研究は,電子カルテの導入により都立病院の組織がどのように変化し,どのような効果に繋がるのかについて明らかにすることを目的とした.具体的な方法として,全職員を対象としたWebによるアンケート調査を実施し,その結果を統計的手法により分析した.因子分析により抽出された各因子をもとに,病院別の因子得点,因子間の関係,職種別の因子得点について検討を行った.その結果,電子カルテの新たな機能,および国や東京都が想定しなかった成果が因子として確認されるとともに,電子カルテの新たな機能が組織変化を経て効果に至るプロセスが示された.電子カルテは病院に勤める職員の努力や病院組織の変革を必要とする技術であることが示唆される.
技術ノート
  • 高田 彰, 長瀬 啓介, 大野 国弘, 梅田 政信, 長澤 勲
    2007 年27 巻3 号 p. 315-320
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     医療情報システムにおいて診療判断支援機能(CDSS; Clinical Decision Support System)を提供することは,医療の安全性の確保の観点から重要な課題であると考えられる.しかし,それをどのような方法で実際に稼働している医療情報システムにおいて実現するかという点については,多くが今後解決されるべき課題として残されている.我々はCDSSを実現する「ユニット」を,知識処理の仕組みを活用したソフトウエア部品として構築することを計画し,長期的な診療情報を蓄積するデータウエアハウス・システムに注目し,知識処理の技術を組み込んだデータウエアハウスの構築に着手した.本稿では,システム構築の目的と技術的な要素について報告を行う.
  • 堀井 洋, 林 正治, 權 仁洙, 吉田 武稔
    2007 年27 巻3 号 p. 321-328
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     著者らは,これまでメタデータ照合型ネットワーク解析システムMANACO(Metadata-based Analyzer for Network Appearances and Communications)の開発に取り組んできた.MANACOはネットワーク経路上において直接的に通信パケットを取得し,それを基にネットワークトラフィックが有する意味的特徴とその動向の解析を目的としたネットワーク解析システムである.本研究では,MANACOを医療情報分野に適用し,医療情報ネットワークトラフィックが有する国際疾病分類ICD10に基づいた医学的特徴(疾病名・疾病分類)の観測を試み,その結果,特定疾病名を含む医学的特徴の把握を実現した.本稿では,MANACOの基本構成および実装について論じ,医療情報ネットワークトラフィックからの医学的特徴の抽出および国際疾病分類ICD10に基づいた分析手法について提案を行う.さらに,実際のネットワーク環境下での医療情報ネットワークトラフィック観測を想定した検証実験の結果について論じる.
  • 橋弥 あかね, 笹井 浩介, 東 ますみ, 石垣 恭子, 稲田 紘
    2007 年27 巻3 号 p. 329-336
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     近年,高齢化による疾病構造の変化,在院日数の短縮,介護保険の導入などにより在宅での看護 / 介護の必要性が増大している.しかし,在宅療養者やその家族の医療知識不足に加えて,知識を獲得するためのしくみは整備されていない.これらの問題を解決するために,今回個人・症状ごとに対処方法を提示するシステムの開発を行った.次のステップでは,データを定義するスキーマとして最新のWEB技術であるRDF(Resource Description Framework)を利用することを想定して,既存の看護学文献などから看護 / 介護知識をエレメント化して抽出し,それぞれのエレメントの関係を定義したデータベースを作成した.さらに,このデータベースからデータを再構築し,最適化された知識を提供することを目的にシステムの開発を行った.本研究で試作したシステムは症状から疾患を推定し,対処方法を抽出する基本的なデータ構造に加えて,治療中の疾患を関連付けることにより疾患や対処方法が個人・症状ごとに最適化されるように設計した.その上で発熱が起こる13疾患に限定し,症状から疾患を推定するためのデータベースと,症状と症状から推定された疾患に治療中の疾患を関連付けた対処方法データベースを作成した.さらに,利用者が入力した情報に基づき,疾患を推定したプロセスと,その疾患に対する対処方法項目ごとに最適化された知識を提示することができるプロトタイプを作成し,医療専門家と一般ユーザを対象に使用実験によるシステム評価を行った.その結果,最適化された知識を提供できたと同時に良好な反応を得ることができ,在宅看護 / 介護支援システムとして実用化が可能であることが示唆された.
  • 西堀 眞弘, 渡邊 憲, 田中 直文, 荒川 真一, 千葉 由美, 二宮 彩子, 菅野 範英, 土井 賢, 田中 博, 小森 麻由, 上村 ...
    2007 年27 巻3 号 p. 337-342
    発行日: 2007年
    公開日: 2015/04/24
    ジャーナル フリー
     視診はビデオのように時間と共に常に変化する視覚情報を用い,かつ色に大きな影響を与える照明条件が様々に異なる環境下で行われている.したがって電子カルテ,遠隔医療あるいはe-learningにおいては,常に同じ色を静止画で再現するより,ディスプレイを見ている場所の照明下で呈する色を動画像で再現する方が,はるかに有用と考えられる.また肉眼では知覚できないスぺクトル情報を何らかの診断が可能となるように視覚化する場合,静止画像として提供するよりも,動画像で提供した方が疾患に特異的な所見を見つけやすいと考えられる.我々は従来よりRGB撮像系で撮影した皮膚の画像から各ピクセルの分光反射率を推定し,任意の照明下の実物の色を再現したり,あるいはメラニン,ヘモグロビンおよび酸素飽和度の分布を視覚化する方法を研究してきた.そこで今回我々は,先ほどの考え方に基づき,従来静止画像の処理に留まっていた機能を改良し,リアルタイムで動画像を表示するシステムを試作した.様々な医療分野の専門家にこのシステムの評価を依頼したところ,静止画像の提示では得られなかった,多様な用途において画期的な有用性が期待できるとの意見を引き出すことに成功した.
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