日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G7-23
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G7:火山及び火山岩
磐梯山1888年疾風堆積物と被災記録
*紺谷 和生谷口 宏充
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抄録
1888年7 月15 日、磐梯山は水蒸気噴火を引金とする大規模な山体崩壊を起こしたことで知られている。この噴火に際してマグマの噴出はおこっていないが、水蒸気噴火に伴って生じた流れ現象が磐梯山東麓の集落を襲い、家屋の倒壊や倒木などの被害がでていることは注目すべき火山現象である。噴火直後に調査を行った関谷、菊池(1888)はこの流れ現象を疾風と呼び、水蒸気爆発によって生じた爆風、もしくは岩屑なだれによって押し出された空気の流れではないかと報告している。その後、中村・グリッケン(1988)やYamamoto (1999)によってこの疾風と呼ばれた流れ現象(以下、疾風と呼ぶ)に対応する堆積物の研究がなされているが、流れそのものに関する重要な情報を持つと考えられる被災記録との対応はいまだ十分とは言えない。本研究では、1888 年疾風に対応する堆積物(以下、疾風堆積物と呼ぶ)とその被災記録との対応をおこない、疾風の詳細と噴火推移の中での位置付けを考察する。1888 年疾風堆積物は崩壊カルデラ沿いの山頂付近と、琵琶沢に沿って堆積しており、地形的低所においてやや厚く堆積する傾向がある。また山頂付近では、降下堆積物を挟んで疾風堆積物の重なりが観察できる。堆積物には無層理なものから斜交層理や平行層理が見られるユニットがあり、級化構造も観察されることがある。また、火山豆石状の凝結粒子や炭化のみられない木片が含まれることから、比較的低温でウェットな流れであったと考えられる。このような堆積構造や、分布、粒度分析結果はサージ堆積物の特徴とよく一致する。疾風堆積物の構成粒子についての顕微鏡観察と粉末X線分析をおこなったところ、構成岩片や粘土鉱物の組み合わせに違いが見られる。このことから異なるフローユニットが存在し、異なる給源から異なる発生イベントを経て流下したと考えられる。また、これらのフローユニットには基盤である花崗岩質岩片を含むユニットがあり、噴火源が基盤付近である可能性が示唆される。これに対し、当時行われた聴き取り調査(磐梯山爆発被災者ニ対スル聴取書(県庁文書)など)にまとめられている被災者や目撃者の証言によると、以下のことが明らかになった。(1)噴火が始まると短時間のうちに磐梯山から黒煙が流下してきた、(2)黒煙の流下に伴って樹木が倒され、住民が吹き倒された、(3)火傷を負った被災者がいたが火傷による死者はいない、(4)黒煙が時間間隙を挟んで複数回流下してきたと読み取れる証言がある。(1)、(2)からは重力流の流下という現象があったこと、(3)からは火傷を負う程の温度はあったが、死に至る程の高温ではなかったこと、そして(4)は複数のフローユニットが存在したことを示唆している。これらの特徴は、先に述べたサージ堆積物の特徴を有する疾風堆積物から推定される疾風の性質に調和的である。複数のフローユニットが時間間隙を持って発生、流下したことは、噴火開始直後に起こった山体崩壊の後にも疾風が発生していた可能性を示している。現在、崩壊カルデラ内や、山体崩壊により生じた岩屑なだれ堆積物の上に疾風堆積物を見つけることはできない。これは噴火開始直後の崩壊の後にも山体崩壊が起こったために疾風堆積物を覆ってしまったということが推定される。
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© 2003 日本鉱物科学会
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