日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G2-01
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G2:サブダクションファクトリー
コロラド台地に産するエクロジャイト捕獲岩の微量元素及び Sr・Nd・Pb同位体組成:沈み込む海洋地殻の化学進化に関する考察
*臼井 寛裕中村 栄三Helmstaedt Herwart
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抄録
沈み込み帯は地球表層物質がマントル中に導入される場であり、沈み込み帯での物質循環を定量的に理解することは、固体地球の化学進化を議論するうえで重要である。スラブの一部を構成する海洋地殻は、その沈み込みに伴いザクロ石と単斜輝石を主要構成鉱物とするエクロジャイトと呼ばれる岩石になることが知られており、マントルへもたらされた海洋地殻に起源を持つ物質(海洋地殻起源物質)として、エクロジャイトを用いた数多くの研究が行われてきた。本研究では、アメリカ合衆国南西部、コロラド台地に約30 Maのキンバーライトの火成作用によりもたらされた、エクロジャイト捕獲岩に着目した。我々のこれまでの研究により、このエクロジャイト捕獲岩の原岩は、白亜紀後期に沈み込みを開始した海洋地殻の一部であることが明らかとなっており (Usui et al., 2003)、本研究ではそれらの全岩微量元素及び、Sr・Nd・Pb同位体組成データに基づき、沈み込む海洋地殻の変成過程における化学進化を議論した。 本研究で用いたエクロジャイト捕獲岩は主要構成鉱物として、ザクロ石、オンファス輝石、ローソン石、ゾイサイトを含む。エクロジャイト捕獲岩の変成温度圧力は、ザクロ石–単斜輝石地質学温度計及びコーサイトの存在により、3 GPa(深さ約90 km)において約550 ℃から750 ℃と決定された。また、これらエクロジャイトは、捕獲岩として短時間で地表にもたらされた為に、二次的な変成鉱物の存在がほとんど認められず、後退変成作用の影響が非常に小さいと考えられる。このように、低温高圧型の変成作用を被った本研究対象のエクロジャイト捕獲岩は、島弧火成作用地域の下に存在する海洋地殻の地球化学的情報を十分保持していると予想される。 XRF及びICP-MSを用いて、エクロジャイト捕獲岩の全岩主成分・微量元素組成分析を行ったところ、エクロジャイト捕獲岩の全岩主成分元素組成は、海洋底変質を被った中央海嶺玄武岩 (変質MORB)の組成領域に含まれ、例えばSiO2 に関し49.0–52.3 wt.%となっている。また、Zr、Hf、Nb、TaといったHFS元素に関しても、同様の傾向を示す。一方、軽希土類元素(LREE)やRb、Sr、U、Th、Pb濃度に関しては、すべて変質MORBに比べ2–10倍程度高い値を示す。次に、TIMSを用い全岩試料のSr・Nd・Pb同位体組成分析を行った。捕獲岩の噴出年代(30 Ma)における、Sr 同位体初生比は0.70502–0.70842であり、εNdは -3.1–-1.2という負の値を示す。このことは、顕生代の変質MORBのεNdが一般に正の値を示すことと矛盾している。また、30 MaにおけるPb同位体初生比に関しても変質MORBに比べ高い値を示し、その組成領域は206Pb/204Pb–207Pb/204Pb及び206Pb/204Pb–208Pb/204Pbダイアグラムにおいて変質MORBと海洋底堆積物両者の間にプロットされる。すなわち、これら全岩微量元素及び同位体組成の結果は、エクロジャイト捕獲岩の原岩である海洋地殻が、中央海嶺において海洋底変質を被った後、沈み込みに伴う変成作用時に海洋地殻の上位に位置する海洋底堆積物由来の変成流体によって汚染を受けた、ということを示している。 これまで、一部の海洋島玄武岩に見られるSr・Nd・Pb同位体組成異常は、マントル中に過去に沈み込んだ堆積岩が存在する証拠として考えられてきた。しかしながら、本研究の結果は、そのような同位体異常は必ずしも堆積岩そのものが海洋島玄武岩の発生域であるマントル深部まで沈み込む必要がなく、堆積岩由来の変成流体によって汚染された海洋地殻物質が沈み込むことによっても説明できる可能性を示唆している。
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© 2003 日本鉱物科学会
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