2021 年 70 巻 2 号 p. 220-227
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体測定試薬は,キットに使用される抗原としてSARS-CoV-2のspike protein S1 domain(S)あるいはnucleocapsid protein(N)を用いる2種類に大別されるが,各キットにおける反応性の違いについては明らかではない。今回,新たにシスメックス株式会社が開発したHISCLTM SARS-CoV-2抗体試薬について,COVID-19と診断された3症例の経時的血清サンプルを使用して反応性および抗体産生の推移についての検証を行った。症例1では来院時点(第X病日)からSタンパクを抗原としたIgM抗体(S-IgM)が陽性を示した。症例2では,第X + 1病日からS-IgMに加えNタンパクを抗原としたIgM抗体(N-IgM)およびIgG抗体(N-IgG)が陽性を示し,第X + 2病日よりSタンパクに対するIgG抗体(S-IgG)が陽性となった。症例3では第X + 12病日よりS-IgMとS-IgGが陽性を示した一方,Nタンパクに対する抗体は第X + 25病日にN-IgMが陽性を示したのみで,N-IgGは観察期間中すべて陰性であった。以上の結果より,HISCLTM SARS-CoV-2抗体試薬のうちS-IgGおよびS-IgM試薬は,感染後早い時期の抗SARS-CoV-2抗体検出に有用となる可能性が示唆された。